田所_くりこま3

自ら考え、行動できる人物形成を目指す 「くりこま高原自然学校」現地スタッフが語る冒険教育

 宮城県栗原市に「くりこま高原自然学校」という自然体験を通して教育をする学校がある。昨今、家のなかで過ごし外に出られない引きこもりの中学生や高校生が多いなか、親もとを離れて自然の中で暮らし、仲間やスタッフと協力してさまざまなことを学んでいく。「冒険教育」というコンセプトで、人間を大きく成長させる独自の教育を行い、コロナ禍の中でも創意工夫しながら活動を続けている。同学校スタッフの塚原俊也さん(41)に話を聞いた。

(トップの写真:くりこま高原自然学校廃材校舎前、「中国子どもスノーキャンプ」の集合写真=2019年2月14日、くりこま自然学校提供)

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 塚原さんは、神奈川県出身で、大学を出たあと中高一貫校で理科の教員をしていた。しかし、相性が合わずうまくコミュニケーションが取れない生徒に接し、「多様な生徒の人間的な成長にうまく関われる先生になりたい」と思った。その過程で環境教育と冒険教育に出会い「くりこま高原自然学校」を知ることになる。冒険教育とは、安心できる環境のもと様々な体験やチャレンジを通して、参加者の成長にかかわっていく教育だ。安心で安全な場所から一歩踏み出すことにより自分のエリアが広がり人間的な器が大きくなっていく。このコンセプトを冒険教育の理念として15年間、塚原さんは生徒たちに自ら考え行動する大切さを教えている。

 くりこま高原自然学校は、大学で野外教育、冒険教育を学び、自然体験を行うプログラム作りを行ってきた代表の佐々木豊志さん(63)が1996年に開校した。教育で世の中を変えていくことが目標であり、最初は元気な小中学生向けの夏休みのキャンプでスタートした。次第に不登校の子の支援も始まっていく。そうした生徒たちも、野外教育や自然体験を通して仲間ができ、良い体験ができて元気になっていったという。高校生や成人のニートの若者も預かるようになった。参加者たちには、小さい頃に思う存分遊んだり自然のなかで遊んだりした経験がない、小さい頃の親との愛着形成が乏しいなどの幼少期の共通点があったという。自分で自分の人生を決めて歩んでいくことが苦手な子が多かったそうだ。

 活動内容は、子どもたちがグループを作って栗駒山に登り、テントに泊まってチームで助け合いながら帰ってくる。また北上川を100キロくらい川下りしてチームビルディングを通して人間的な成長をしていく。冬は雪の家の「イグルー」をみんなで作って泊まる。冒険活動に親は参加しない。自然の中で行われるため、危ないときもある。自分のことは自分でしなければならない。体や気持ちの強い子は弱い子を助ける。体力がない子でもできることはたくさんありチームに貢献している。社会の縮図ともいえるようなことを、実体験を通して学んでいる。

くりこま高原自然学校の廃材校舎=2016‎年‎10‎月‎16‎日、塚原俊也さん撮影

 「思いとしてはSDGsを実現したい」「体験から学ぶことが主なもので、行動できる力を持てるような人を育てたい。『生きる力』を育むことを行っている学校だ」と塚原さんは言う。SDGsとは持続可能な開発目標の略称で、国連サミットで採択された言葉である。自然環境、貧困、医療、人権問題など多くの社会問題のなかで、生徒たちに自主的に生きるための行動力を身につけてほしいというのが、学校の目標である。

 塚原さんは「自分の課題や目の前の課題に対して積極的に取り組める人になってほしい」と考えている。キャンプをやらされているのではなく、どんなことを考えてキャンプに参加しているかが大事だという。「子どもたちはいろんなことにチャレンジするんですけど、失敗とか成功っていうのはどっちでもいいんですよ」「むしろ失敗した方がたくさん学ぶことが多い」と話す。失敗を怖がる子もいるが、なんとか勇気づけて励ましているそうだ。今後も塚原さんは、森の中の自然学校として多くの生徒たちに、自主的に考え行動できる力を育む教育を行っていく。

 

※この記事は2020年春学期「ニューズライティング入門」(朝日新聞提携講座)」(岡田力講師)において作成しました。

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