「スローとは繋がり」環境運動家・辻信一さんが語るスローライフ
環境運動家で明治学院大学教授の辻信一さん(67)は、のんびり生きることで、環境と文化を守り、心身も健全に保つという「スローライフ」を訴えてきた。2003年からは毎年夏至の日に電気を消して、ろうそくの灯りのもとで大切な人とスローに過ごす夜を呼びかける「100万人のキャンドルナイト」を開催してきたが、あえて2012年に終わらせた。その後、農作業など様々な活動を通して、実践しているというスローライフについて聞いた。
(トップ写真:大学の隣にある公園はお気に入りの散歩コースという辻信一さん=2019年5月17日、横浜市戸塚区舞岡公園、吉田光希撮影)
高度経済成長期の東京で生まれ育った。「より大きく、より多く、より速く」を合言葉に猛烈な勢いで経済が成長していくのを目の当たりにした。「この社会はおかしいのではないか」という違和感を抱いた。
大学生時代をアメリカとカナダで過ごした。文化人類学を専攻し、自然に高い価値を置く先住民など、社会の中でマイナーな価値を持っている人やものに興味を持った。「環境と文化」という二つのテーマが結びついた。
次第に、自分の中で「スモール、スロー、シンプル、ローカル」という言葉が育っていった。それらには、「より大きく、より多く、より速く」の時代に否定され、切り捨てられた価値が存在していた。2001年には著書「スロー・イズ・ビューティフル」を出版した。
経済活動が活発になるにつれ、環境は破壊され、争いが起き、何より自分の心が壊れていく。そんな風に感じた時、自分のペースを見失わないために、スローライフの一環として、ヨガや瞑想を行っている。短い時間でもよい。自分の呼吸に意識を集中し、本来の自分を思い出す。落語や俳句など趣味の時間も大切にする。どんなに忙しくても「好きなことは手放さない」のがモットーだ。
スローとは何かと聞いてみた。「社会における人間同士の繋がり」と「人間と自然界との繋がり」が「健全であるためにはたっぷりとした時間が必要」という。そして、「相手のペースを尊重し合わなければ成り立たない」とも教えてくれた。
大学で教鞭を執っているのも、そんな思いを次世代に伝えるためだ。学生たちには「生きることの意味を思いっきり考えたり、自分たちが暮らしたい社会を夢見て想像したりして欲しい」。そのためにゼミ生とは旅や田んぼの作業をして、頭で学ぶと同時に、心で感じることを大切にする。
2012年「100万人のキャンドルナイト」を終わらせた。「手放すことの大切さ」を伝えたかったのだという。「人々は一つのことを始めたらあたかもそれが永遠に続くかのように思っている。自然環境も経済成長も命も永遠ではない。キャンドルナイトの運動そのものが目的だったのに、いつしか、『100万人のキャンドルナイト』という大きな組織を維持するという目的に変わってしまうように感じた」。だから規模を小さくして、2012年以降は毎年、夏至と冬至に横浜市の善了寺でゼミ生と共にキャンドルナイトの運動を続けている。大きな活動である必要も、無理に続ける必要もない。日常の中で、一人一人がキャンドルを灯す時間を設ければいいと思っている。
※この記事は2019年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木友紀講師)において作成しました。
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