樫木啓二さん

悩み事、抱え込まずに学生相談室へ

 早稲田大学学生部が実施している「学生生活調査」(2016年度)によると、学生の4割が学生生活全般に関して不安や悩みを抱えていることが分かった。最近はSNSに関連したコミュニケーションの悩みを抱える学生が増えているという。同大保健センター・学生相談室の心理専門相談員、樫木啓二さんは、気軽に相談に訪れてほしいと呼びかけている。

(トップの写真:「こんなことで相談していいのか、などと抱え込まないで気軽に来てほしい」と話す学生相談室心理専門相談員の樫木啓二さん=2018年7月12日、東京都新宿区早稲田キャンパス、金安如依撮影)

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 学生相談室は、キャンパスから大隈ガーデンハウス1階を通り抜けた25-2号館保健センター(東京都新宿区、井上真郷所長)の6階にある。

 1968年に設立されて以来、対人関係や家庭環境、自身の性格、修学、進路、法律相談など、学生の様々な悩み事を受け付けてきた「よろず相談所」だ。 

 例えば、勉強に加えてアルバイトやサークルなど、するべきことが多く、うまく時間を使えない、と相談に来る学生がいる。そんな人には、週に一度、一週間の過ごし方を共に考える「作戦会議」ともいえる支援を行う。課題の多く出る学期末には、いつレポートに手を付けるかといった具体的なアドバイスもする。1週間経った翌週、出来たことや出来なかったことを振り返り、再度その後の過ごし方を検討する。1回のみの利用から、在学中に年単位で支援を行う場合もあり、「学校生活のペースメーカー」として利用する手もある。

 近年はSNSに関する相談も目立つという。対面でのコミュニケーションでは上手くいっているようでも、実はSNSで悪口などを書かれた、と相談に来る。人を信じられなくなり、これからどう付き合うべきかと来室するらしい。

 「現代の学生は、(現実とSNS上という)二つのコミュニティーを同時にやっていかないといけないので大変なのです」。事情に応じて仲間との距離の取り方をアドバイスしたり、学部へ相談したり、人権侵害の度合いが強い場合には警察へつなぐといった対応も行う。

 1957年から始まった学生生活調査は学生の授業や進路、心身の健康、課外活動状況などについて2001年から毎年調べてきた。16年度は5月から約一か月間にわたり学内のネットワークを通じて実施。1万2000人を抽出し、4440人(回収率33.5%)から回答を得た。人関関係や性格、能力などを理由に学生生活に関して悩みを抱えている学生が約40%にのぼること、また、相談先を問う項目では「誰に相談したらよいか分からない」を選んだ学生が約8%、「相談できる人がいない」人も12%いることが明らかとなった(二つまで選択可能)。

 

学生時代は揺らいで当たり前

 樫木さんは「大学生活は枠組みが緩く、変化が大きい。時間割を自分で決めていかなければいけないように、自分で情報を得て判断していく自主性が求められるようになる」といい、同時に心理的発達としても自分らしさを見つけ、どう社会に出ていくかを選ぶ時期でもあると話す。「精神的に揺らぐことは自然なことです。そこにその人らしさや成長がある。それを応援する場所でありたい」

 すぐに解決するのは難しい場合もあるが、悩みを言語化することで、気持ちを整理できることも少なくない。「自分で努力することも大事ですが、時には上手に人に頼るのもいい」

 温かい声が印象的で、思わずいろいろと打ち明けたくなるような雰囲気を作り出す樫木さん。元は高校教員で、不登校生徒が気になり、人の成長を支えたいと考えるようになった。中高のスクールカウンセラーの経験もある。1995年から、この相談室に勤務している。「本人に代わって何かをするのではなく、伴走者として応援したい。(無事に)学生生活を送れるように、卒業して社会に出られるように支えたい」

 学生相談室の開室時間は平日午前9時~正午、午後1時~5時。土曜は午前9時~午後1時。予約優先。電話は03・3203・4449。月2回は弁護士も在室。戸山、西早稲田、所沢にも分室がある。

 

この記事は2018年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木友紀講師)において作成しました。

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