「完璧じゃなくていい」
里親家庭や養子縁組家族を撮る写真家・江連麻紀さん
里親家庭や養子縁組の家族らを被写体とした写真展「フォスター」が、6月2日から7月1日まで東京都世田谷区で開催された。親子が一緒に台所に立つ姿やこたつでくつろぐ姿など、何気ない家族の日常を切り取った写真が並んだ。企画した神奈川県川崎市の写真家・江連麻紀さん(38)に、伝えたい思いを聞いた。
(トップの写真:写真展を企画した江連麻紀さん。カメラを向ける先には、生きづらさを抱えた人が多い=2018年6月12日、東京都世田谷区、清水郁撮影)
フォスターとは、英語で「育てる」「はぐくむ」といった意味を持つ。昨年7月に知人から誘いを受け、共に里親家庭を撮るプロジェクトを始めた。
写真展は今年3月に東京都板橋区からスタートし、今回で5ヵ所目。会場には、家族が食卓を囲んだり、洗濯物を干したりする日常の風景を写した写真が並んだ。生みの親と子どもが一緒に写った貴重な一枚や、被写体となった子どもたち自身が撮影した写真も展示された。
巡回した先々で、写真展は当事者たちに好評だった。また、里親や養子縁組についてほとんど知識のない人たちからも予想外の反響があった。それは、写真展が来場者自身の家族を語る場所になっていたことだ。
家族とは何かという話をする中で、「私の家はしつけが厳しくて辛かった」と、自身の経験について話をしてくれた人もいたという。江連さんは「家族って誰に対してもテーマになるのだなと思った」と振り返る。
弱さで繋がる人と人
江連さんが写真家を目指したのは、趣味で写真をやっていた父親の影響だった。地元の徳島で短大を出たあと、上京して写真の学校に通った。しかし、撮りたいテーマが定まらないまま卒業し、結婚して長女を出産。再び写真を撮りたいと思ったのは、夫が精神面で悩みを抱えるようになったことがきっかけだった。
夫の姿を見て、生きることの大変さを改めて感じた江連さんは、「人はどうやって生まれて、どうやって生きていくのか」をレンズを通して違う視点から見てみたいと考えた。そして、心に不調を抱える人々やお産を迎える家族らを撮り始めた。
撮影を通して出会った人たちに共通していたのは、「ひとりでは生きられない」ということだった。そして、そこには人の弱さがあった。
「弱さって人と人をつないでくれるんですよね」と江連さんは言う。一人では抱えきれないことを乗り越えようとするとき、誰かが加わってきて徐々に生きやすくなっていく。その過程を共に過ごして撮ることが、江連さんにとって喜びとなった。
当たり前の日常を撮る
昨年から新たに取り組み始めた里親家庭の撮影では、日常を撮ることにこだわっている。そのため、被写体となる家庭にはなるべく多く通い、一緒に生活をするようにしている。それは里親家庭に対する偏った見方を変えたいとの思いからだ。
里子は「可哀想な子」、里親は「とても立派な人」だと思われやすい。けれども、江連さんが撮影を通して出会った家族たちは、誰もが繰り返す当たり前の日常を過ごしている。
酔っぱらっている父親、夕食にカレーが3日続くこと、買ってきた惣菜で夕食を済ませること……。これらはどこの家庭でも見られる光景だが、もし施設で過ごしていたら体験できないことばかりだ。
「家の中は人間のダメな部分を学ぶ場でもある」と江連さんは言う。家庭も大人も完璧じゃなくていい。今回の撮影で再認識した人の弱さ、尊さをこれからも伝えていくつもりだ。
【追記】
父親が写真家→趣味で写真をやっていた (2018年9月16日訂正)
徳島で専門学校を出た→短大を出た (2018年9月16日訂正)
この記事は2018年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木友紀講師)において作成しました。
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