渡邉歩さん

心の変化に向け取り組み進む 早稲田大学GSセンター

 早稲田大学GS(Gender and Sexuality)センターは、開設から2年目を迎えている。学生や職員の多様な価値観や生き方を尊重するキャンパスを目指し、ジェンダーやセクシュアリティに関する悩みを抱えた学生や職員のより所として活動している。学生や職員からの声が制度改革につながる例も出てきた。しかし、意識面での変化は道半ば。「整ってきた制度にどれだけ心が追いつくかです」と同センター専門職員の渡邉歩さんは語る。誰もが暮らしやすい社会のために、何が必要なのか。

(トップの写真:学生からの相談に応じる渡邉歩さん=2018年7月10日、早稲田大学GSセンター、戸恒幾汰撮影)

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 早稲田キャンパス10号館の一角。大隈銅像の背後にある窓からは虹色の旗が垣間見える。2017年4月、学生の提案をきっかけに、ジェンダー・セクシュアリティの問題を専門に扱う機関として開設された。学生も学生スタッフとして運営に携わる。相談をはじめ、正しい知識を得るために書籍を調べたり、職員から話を聞いたりできる。

 設立以前、大学側からは「利用者は少ないだろう」と懐疑的な意見もあった。しかし、いざ設立されると予想以上の反響があった。2017年度の来室者数は1000人弱で、今も増加傾向にある。GSセンターがあるから早稲田に入学を決めた、と話す人もいるという。

 

学生名簿から性別欄を廃止

 同センターと大学の学生生活課ダイバーシティ推進室が協働して制度面での改革が進められている。2017年7月、大学は「ダイバーシティ推進宣言」を出し、全ての学生や職員が過ごしやすい環境作りを目指している。その取り組みの一つは、学生名簿から性別欄を廃止したこと。戸籍上の性別によって女性は「〇〇さん」、男性は「〇〇くん」と呼び分けられて違和感を感じた、という学生の訴えが背景にある。

 制度面は確かに少しずつ変わってきた。しかし、まだ心は変わっていないのが現状だ

 「GSセンターってゲイとかレズがいるところでしょ?」。ある学生スタッフが友人にかけられた言葉だ。友人たちが「ホモネタ」で盛り上がり、「嫌だったけど、仕方なく笑うしかなかった」と語る学生スタッフもいる。

 「これからは意識面での課題にも取り組んでいきたい」と渡邉さんは話す。

 意識面での変化が難しい理由の一つに、二項対立での語られ方があるという。LGBTの問題を語る時、セクシャル・マイノリティ当事者か非当事者かの二項対立が散見される。どう両者の溝を埋めていったらよいのだろう。「LGBTをモンスターか何かだと思う人もいる。LGBTか、そうではないかではなくて、みんなに当てはまる問題として考えて欲しい」と渡邉さん。自認する性や恋愛対象の性だけでなく、好きな服装や話し方、理想の恋愛関係など、「誰もが多様な性のグラデーションの中で生きていて、みんなが当事者なのです」。

 心の変化を促すための一環として、7月の第1週に「WASEDA LGBT ALLY WEEK 2018」が開催された。GSセンターが学生と共催した講演会「私たちのホモネタ論」には、想定を超える約200人が来場した。心の変化を促すためには講演会等を通して「無関心層にアプローチすることが大切」だと企画に携わった学生スタッフは語る。

 「女らしくとか、男らしくじゃなくて、自分らしくいられる社会になってほしい」と渡邉さんは語る。LGBTの問題が少しずつ浸透し、社会は変わりつつある。しかし、まだ課題は残る。「あと10年で、このセンターをなくしたい」と渡邉さん。相談する必要がない社会を目指して、学生たちに寄り添い続けている。

開室時間は平日10時〜17時(11時半〜12時半は閉室)。

 

この記事は2018年春学期「ニューズライティング入門(朝日新聞提携講座)」(柏木友紀講師)において作成しました。

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