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ネットの入社試験 業者が代行「2年で1万件」
試験提供会社は「とりたてて対応とっていない」

企業の入社試験で利用されているウェブテストで、業者が受験者に代わって試験を受ける代行受験が、ビジネスとして行われている。代行業者の1つは取材に対し、違法性を否認した上で「これが道徳に反するかって話になるとそこはとらえ方」と述べ、「この2年で1万人の代行をした」と話した。ウェブテスト提供会社のリクルートキャリア(本社=東京都千代田区)は、「現在のところはとりたてて対応をとっているということはない」ことを明らかにし、「今後の状況によっては適切に判断する」と回答した。(上の写真は「Webテスト攻略.com」のHP画面の一部、2017年6月1日現在)

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 90年代後半からウェブテスト普及

  ウェブテストはインターネットを介して行われ、受験者は計算、読解、英語、性格検査などの問題を自宅のパソコンなどの上で解く。国内最大級の就職支援サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア社が1990年代にサービスを始め、同社のホームページによると、現在では約11,000社に対してウェブテストサービス「SPI」を提供し、年間で約180万人が受験している。

 

SPI3に関する説明=2017年3月3日、SPI3公式ホームページより

ウェブテストサービス「SPI3」に関する説明=2017年3月3日、SPI3公式ホームページより

 

 リクルートキャリア社の研究機関である就職みらい研究所が発行している就職白書2017によると、「企業が採用基準で重視する項目」として、38.9%の企業が「性格適性検査の結果」を、31.9%の企業が「能力適性検査の結果」を重視しているという。

 ウェブテストは、ネット環境が整っている場所であれば、どこでも受験することが可能。企業にとっては会場を用意しなくて済むため低いコストで受験者の能力を測定することができる。しかし、受験の様子を確認できず不正行為を見抜けない恐れがある。

 

 ネット上で代行業者が宣伝 

  インターネット上で「ウェブテスト代行」などの言葉を検索すると、ウェブテスト代行を宣伝する業者を少なくとも3つ見つけることができる。

「webテスト代行センター」は、そのウェブサイトの「特商法に関する記述」のページに、東京都中央区日本橋茅場町にあるビルの6階を「所在地」として表示している。2017年3月10日にビルの管理会社に電話で問い合わせたところ、現在その様な入居者はいないという。3月11日午後2時ごろ実際にビルを訪ねたところ、現場は貸事務所で、案内にそれらしき会社は無かった。電話帳を調べたり、ネット上で検索をかけたりしたが、電話番号を把握できず、連絡先はソーシャル・ネットワーキング・サービスのラインのアカウントを公開しているだけであった。3月17日にアカウントへ連絡を入れたところ、取材は拒否された。

「webテスト攻略.com」は、「通過率97%」、「昨年度、15,000人以上」などとインターネット上で宣伝し、ウェブテスト代行を1回当たり14,000円で受け付けるとしている。基本的にはメールや電話で依頼をすることになるが、1回当たり30,000円で実際に依頼者の目の前で代行をするサービスもある。

 

「就職支援課」と書かれた事務所のポスト=2016年11月24日、川口市北原台の事務所、佐賀旭撮影

「就職支援課」と書かれた事務所のポスト=2016年11月24日、川口市北原台の事務所、佐賀旭撮影

 

「webテスト攻略.com」のウェブサイトの「特定商取引法の表示」のページには、運営会社として「合同会社future steps」と記されている。同社の登記によると、事務所所在地は埼玉県川口市北原台。記者が現場を訪ねたところ、事務所がマンションの3階にあり、郵便受けには「教育事業部」「就職支援課」などの貼り紙があった。また同社はインターネット上で「訪問介護」業務を行っているとも宣伝している。埼玉県の高齢者福祉課によると、同社は2016年1月1日に介護保険法に基づいて指定事業所として「訪問介護」と「介護予防訪問介護」の許可を県から受けている。

 

 取材に応じた22歳の代行業者社長

  同社の山本新(あらた)代表(22)は、昨年11月30日に川口市の事務所で記者の取材を受けた。長い茶髪にパーカーとジーンズというラフな格好で穏やかな物腰、冷静でありながら自信を感じさせる落ち着いた口調で話した。

 山本代表の説明によると、これまで早稲田や慶應といった有名大学の就職活動生を中心に依頼を受けてきたという。もともと家庭教師派遣業から始まった同社は、授業の合間に手の空いた講師をそうした代行業務に当たらせているという。

 こうした業務を始めたきっかけに関して山本代表は「私、大学行ってないんですけど、友達が就職活動でウェブテストやってくれないかということで、それでこういうサービスが必要な人って多いんじゃないかなって思って始めた」と言う。社会的に問題は無いのかという記者の質問に対し「不正ってみんな言ってますけど、代理受験がばれてしまったこともないですし、企業側もいくら代理はだめですよと書いてもそこは注意に留まっているんじゃないのかな」と回答した。

 リクルートキャリアについては「対応に消極的なところを考えるとリクルートさんも承知のうえで、ウェブテストを課しているとこちらは考えてしまう」という認識を示し、これからも代行ビジネスを続けていくのかという質問に対して、「こちらとしては悪いという認識は無いですから、最後までやります」と答えた。

 

 リクルート子会社、対策は未定

  リクルートキャリアの広報担当者に取材を申し込んだところ、昨年11月16日に丸の内にある本社ビルで、測定技術研究所の主任研究員である園田友樹氏ら3人が取材に応じた。ウェブテスト代行について「望ましいものではない」とし、「弊社では代行を問題と捉え、対策の検討を進める」と答えた。具体的な対応策については「今後の状況によっては適切に判断してまいります」と答えた。

 ウェブテストを本人以外が受験すると、当然のことながら、本人の能力や性格とは異なる結果となる。そのため本来であれば向いていない仕事に就いてしまう恐れがある。取材に同席した就職みらい研究所所長の岡崎仁美氏も「本人にとってはいい仕事に出会うとか、自分を生かせる機会を失ってしまうことにつながります」と指摘した。

 また園田氏はウェブテストにおいて不正を根本的に無くすことは難しいとし、リクルートキャリアではウェブテストを利用しているクライアント企業に対しても、そうした不正が行われるリスクを説明しているという。「SPIでこういう特徴をもっていると出ているんだけども、実際にお会いした印象や入社した後に働いている印象を見ると違うように見えるとお問い合わせをいただくことがある」という。実際に採用した人物とウェブテストの結果がかけ離れていると指摘された格好となっている。

 

 違法性は

  はたしてウェブテスト代行は本当に違法性がないのか、インターネット上での法律問題に詳しい清水陽平弁護士は、電磁的記録不正作出及び供用の罪に当たるのではないかと言う。

 刑法161条の2第1項では、「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」と定められている。清水弁護士は、「『事実証明に関する』とは、実社会生活に交渉を有する事項を証明するものをいうとされており、テストの答案は学力を証明し、それにより合否を検討するためのものであるため、事実証明に関するものということができます。これを他人が代行することは『人の事務処理を誤らせる目的』ということもできると思われます」と見解を示した。

 1991年に発覚した明治大学の替え玉受験では、93年4月5日の東京高裁判決で、私文書偽造罪の成立が認められた。「答案は、志願者本人の学力の程度を判断するためのものであって、作成名義人以外の者の作成が許容されるものでないことは明らかである」と東京高裁の判決は指摘した。この判決は1994年11月29日の最高裁第3小法廷の決定で確定している。清水弁護士はこの判例を引いて、ウェブテストにおいても、電磁的記録不正作出及び供用の罪が成立する可能性は十分に考えられると指摘した。

 

<佐賀記者の解説>

 こうした業者の行いは、違法性が疑われるだけでなく、就職業界に悪影響を与えていることは明らかである。そしてこの問題における最大の被害者はウェブテストを企業に提供している会社ではなく、真面目に就職活動や採用活動を行っている人々であり、ウェブテストの提供会社には不正に対しての具体的な対策が求められる。

 

 この記事は、J-Schoolの実習授業「調査報道」を担当する奥山俊宏記者、澤康臣記者のアドバイスのもと取材・作成しました。

 

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