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旅は人と出会い、自分と出会う

大学生時代を旅に費やした一人の会社員がいる。今年の春、大学を卒業したばかりの小澤貴也さん23歳だ。国内46都府県を訪れ、100日間で12ヶ国の世界一周旅行も経験した。異郷で人と出会い情景を目の当たりにし、彼は何を思ったのか。何に気付いたのか。人生に影響を与えた出来事を彼の旅の記憶から探った。

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  ――今まで訪れてみて一番よかったと思うところはどこですか。

  あえて一つ挙げるならインドです。価値観が変わったので。

  ――価値観はどういう風に変わりましたか。

  豊かさという面で変わりました。僕もそうですが、日本にいると物質的な豊かさを求めがちだと思うんです。物事に恵まれているので。でも、本当に大事なのは心の豊かさ。僕も心の豊かさを大事にしたいなと思うようになりました。

  ――心の豊かさはインドで暮らす人々の何から感じましたか。

  一人の子供と話していて、夕方になってその子が少し寝てくるねと言ったのでバイバイをしたんです。すると、彼は走って笑顔で段ボールを持ってきて道の上で寝るんです。本来はベッドの上で、雨に濡れないところで寝たいと思うはずなのに「僕はここで寝る」「やっと寝れる」っていう姿から心が豊かだなあと感じました。

  ――なぜそう思ったんですか。

  インドでも中にはベッドで寝る子もいます。でも、その子はベッドで寝る子が羨ましいという感じではなかった。段ボールで寝る姿はとても幸せそうでした。

  ――小澤さんにとっての心の豊かさとは何ですか。

  たとえ自分が貧しいと言われる状況に置かれていても、けっして周りと比べずに今の自分の状態を楽しめる、それが心の豊かさだと思います。

  ――日本の旅で、小澤さんの人生に関わるような体験はありましたか。

  ありました。インドに行くちょうど一年前、四国の旅でありがとうを悟ったことです。

  ――それはどういうことですか。

  四国で25日間かけてお遍路の旅をしたんです。徳島からスタートして、高知。愛媛、香川と全長1200㎞をまわったんですが、1日14時間で50㎞を歩き続けていたらだんだんと体にガタがきてしまって。高知に入って歩けなくなり、旅で初めて病院に行ったんです。先生からは、お遍路はもうやめた方がいいと言われました。でも、僕はどうしても諦めきれなくて。それならと、お医者さんは治療院のおじさんを紹介してくれました。おじさんに足を見せたら「お前は感謝の気持ちが足りないんだ」と怒られたんです。「親からもらった身体でここまで生きてこられたのに何で感謝できないんだ。痛くても一歩進むごとにありがとうと言うんだ」って。言われた通りにすると、足は本当に痛くならず、気にもならなくなりました。その時にありがとうってすごいことだと思ったんです。

  ――そのことは、小澤さんの人生にどう影響していますか。

  どんな時もどんなことにもありがとうと伝えていきたいと思うようになりました。ありがとうって言うと、ありがたいことやありがたい現象を引き寄せることができる。それに気付いて、ありがとうを先行投資するようになりました。

  ――四国の旅で気付くことができてよかったですね。

  よかったです。自分が四国1200㎞を頑張ってまわろうと決めて挑戦している最中に気付けたので、自分の身に刻まれました。

  ――そもそも、なぜ旅をしようと思ったのですか。

  僕は生まれも育ちも神奈川県で、大学生になるまで旅をしたことが一度もありませんでした。大学1年生のゴールデンウィークに旅行で京都に行くまで、新幹線の切符の買い方も乗り方もわからなかったぐらいです。そのぐらい僕は世間知らずだし、見ている視野も狭い。だから自分の知らない外の世界を見てみたいなと。

  ――初めての京都の旅でどんなことを感じましたか。

  哲学の道を歩いたんですが。一歩踏み出すごとに道は続き、まわりには自然、こんな場所を先人は歩いてきたんだ、道を造ってくれた人がいたんだと思ったら、僕が今を生きていけるのは自分一人ではできないことなんだと強く感じました。

  ――様々な地を旅してどうでしたか。

  たかが旅だけど、本当に考え方や価値観が変わっていきました。人との出会いや意識できていない自分との出会いもある。それは旅をしているから。

  ――小澤さんにとって旅とは何ですか。

  こんなに気付きがあるのかとか、同じ日本、地球でも全然違う景色を見ることができるとか、そういうことを感じてまた別の地に行こうと好奇心を湧かせるものです。それに、旅は夢の一つです。海外に行きたい、世界一周をしたいという夢です。

  ――これからも旅を続けますか。

  旅はずっとします。とりあえず北海道へ。まとまった期間で一周しようと考えています。その後に、世界2周目。地球にあるもの全部見てやろうって気持ちで世界はあと2、3周したいですね。

 

取材を終えて

  初めて会った瞬間、小澤さんはすかさず手を差し出してきた。旅する中で人と出会えば、彼は握手とあいさつですぐに仲を深めてしまうのだろうと容易に想像できる。聞けば、英検4級に落ちた語学力で、さらに案内本も持たずに初めての海外である世界一周旅行を楽しんだという。郷に入っては郷に従えという諺があるが、現地の言葉の「こんにちは」と「ありがとう」で過ごしてきたからこそ、旅は彼に数々の気付きを与えたのではと思わせる。

略歴

小澤貴也

  1987年神奈川県生まれ。現在は社会人1年生。大学在学中、日本や海外への旅に夢中に。旅の最中に記した日記をもとに、その記録をブログで発信している。将来の目標は「旅人」という職業につくこと。

 

キーワード・メモ

ブログ「冒険旅行エンターテイナーのブログ~踏み出す一歩が道となる~」

●小澤さんの日本46都府県の旅

  大学1年生春から大学4年生春にかけて、春休みや夏休み、冬休みなどの長期休みを利用して各地域ごとに旅した。四国を除いて平均1週間ずつでまわっている。基本的に野宿。移動は徒歩や鈍行列車など、できるだけ「速くないもの」を選んだ。訪れた土地では、都会では見られなくなった「昔からある場所や風景」を探し求めている。

小澤さんの世界一周旅行

  2009年8月28日から100日間、中国、タイ、カンボジア、インド、ケニア、エジプト、モロッコ、スペイン、ペルー、ベネズエラ、アメリカ、オーストラリアの順に12ヶ国を訪れた。費用は全部で約120万円。航空機のチケットから宿の確保まで自分で企画した。現地では自分から声をかけ、現地の言葉で挨拶することをルールにしたという。

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※この記事は、2010年度J-Schoolの授業「ニューズルームE」において作成しました。

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