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教員コラム:グローバル中国の実像は掴めるか?

変わるもの、変わらないもの

建国60周年を迎え、右肩上がりに発展を続ける中国。その変化の速さ・大きさには日々驚かされる。しかしその一方で、変わらないものもある。激しい変化に隠れて私たちには見えてこないのだ。中国の最近30年の歴史を交えながら、今後中国が成長するためのカギは何か、考えてみることにしよう。

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 発展を続ける中国

 現代中国を研究対象にしていると、その変化の激しさ、規模の大きさと多様性にいつも悩まされる。昨年は改革開放以来30年、今年2009年は中華人民共和国の建国60年を迎え、国慶節には文字通り、お祝いの大キャンペーンが行われた。

グローバル大国になったと言われる中国について、とくにこの30年間の成長し膨張する経済をどう見るか、今後どうなっていくのかなどについて、超楽観的から超悲観的にいたるまで、実にさまざまな見方ができるので、観察者としては途方に暮れるのである。

下の【図1】は、2008年のGDP総額と購買力平価での順位を示している。いずれもIMFデータである。GDP総額でも中国が日本を追い越すのは、2010年か2011年のことだろう。2008年秋からの世界金融危機で、日本も韓国も、そして米国でさえ、中国経済の巨大な潜在力に実は大変依存しているのである。

話は変わって、【図2】は、2007年と2008年の中国共産党についてのデータである。党員が7500万もいるお化けのような政党があるということだけで驚いてしまう。7500万人の利益は一つにまとまるのだろうか。まとまるとして、では中国共産党は一体誰の利益を代表しているのだろうか? 昨今党員構成は、労働者が10%を割り、農民が30%位、あとは公務員や管理職についた人々(いわゆに幹部)、しかも20%が年金生活者だ、というのも驚きである。60年前、中国共産党は「労働者農民の党」だった。党員の6割~7割がいわゆる労働者農民だった。60年後のいま、中国共産党は、学歴が高い、幹部、エリートの政党に変わってしまった。しかも上に行けば行くほど、高学歴と高所得のエリート集団が支配している。

変わらないものとは・・・

次の【図3】は、2000年代に入って登場してきた新しい政治・経済アクター、私営企業家についてのデータである。このデータでは、2007年、私営企業は合計520万戸、そこに雇用される従業員は6000万人、ということになる。89年には9万戸、従業員140万人しかいなかったのだから、驚くべき成長である。調査では彼ら「レッド・キャピタリスト」の三分の一は党員で、党の傘の下にいる。 以上をみると、中国が激変していることが否応なく分かる。改革開放の30年は、日本にひきつけて考えれば、明治維新から1950年代に到る百年に相当すると言えないこともない。 だが、問題はちっとも変わらない中国がある、という事実なのだ。

 

【図4】を見てほしい。建国60年で変わらないものは何だろう。 一つは共産党-国家-軍の三位一体体制は少しも変わっていない。日本では55年体制は崩壊したが、中国の55年体制はまったく安泰なのだ。また、土地の公有制度が50年代半ばに確定して以来、これも60年近く変わっていない。農民や企業がもっているのは、土地の使用権であって、所有権ではないのである。選挙法も1979年に新選挙法ができてから30年間変わっていない。肝心なのは、都市住民と農村住民の投票権格差が制度化されている点だ。79年までは8対1、80年代からは4対1となった。

 

農村と都市の二元的戸籍制度も変わらない代表だ。統制経済と雇用の計画的分配というなかで1950年代後半から、都市と農村はさまざまに隔絶された。農民が都市住民になれるのは、一つは大学進学、もう一つは軍への入隊だった。今、都市と農村を浮遊する1億5千万人の農民工がいるという。彼らはほとんど都市で働き、暮らしているのに、都市住民の身分が与えられない。農民は二等市民、農民工は三等市民だと蔑まれる。

中国は手に負えなくなった。「乱反射する中国」に研究者は目くらましにあっている。なんとか、中国研究の新手法、新パラダイムを開発したい、と日々念じている。

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