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教員コラム:『占領期雑誌資料大系』(大衆文化編)の完結(山本武利教授)

占領期、GHQが検閲のために収集した膨大な雑誌・新聞を所蔵したプランゲ文庫。その膨大の資料のデータベース化と『占領期雑誌資料大系』の編集を政治経済学術院教授、山本武利教授が手がけた。

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日本占領期メディア資料の宝庫―プランゲ文庫

 GHQが検閲のために収集し、米メリーランド大学が所蔵するゴードン・W・プランゲ文庫は、占領期の日本の雑誌、新聞、図書などのメディアの貴重な宝庫である。同大学と国立国会図書館は協力して、これらのマイクロ化という事業を行っている。現在市販されているプランゲ文庫所蔵の雑誌マイクロ・フィッシュは、推定頁数610万にも上る膨大なものだ。

 敗戦によって日本は被占領国とはなったものの、長い軍国主義の重圧から解放された喜びを自分たちのメディアで吐露したいという欲望が各階層から噴出した。青年団員、引揚者、結核療養者、夫を戦争で失った女性など、今までメディアや権力と無関係だった人々が新しい時代での自分の考えや夢を自分の言葉で表現した。そこには生活難ばかりか用紙難、印刷難をも克服するほどのエネルギーがみなぎっていた。いわば仙花紙とガリ版を使ったブログの時代であった。

 

プランゲ文庫全雑誌情報のデータベース化

 占領期メディアデータベース化プロジェクト委員会(代表者・山本武利)では、日本学術振興会の2000-2004年度科学研究費補助金(研究公開促進費)を受け、プランゲ文庫の全雑誌の目次とその筆者名、掲載号、ページなどの情報をデータベース化した。(「占領期新聞・雑誌情報データベース」で公開)。

 雑誌データベースに収録されたものは、記事の数だけで200万件近くもあるため、データベースに依拠するだけでは、雑誌全体ばかりか各分野の雑誌の輪郭を捉えるのは、データベースには本文が入力されていないこともあり、到底不可能である。

 私たちは丹念に本文に当たってきたが、「キーワード検索」でヒットするタイトルの多さと、本文が玉石混淆さながらであることにうれしい悲鳴をあげた。その中から、仲間同士で率直にその資料価値の判断を行い、各ジャンルの動向を鋭く反映させた記事の選別に時間を費やした。そうした作業を経て、占領期雑誌の全体像をある程度把握したとの確信を得るに到った。また多くの著名人の全集や著作集に未収録の新資料の発見から、占領期雑誌がこれまで資料としてあまり活用されなかったことを知った。こうして各分野の1次資料を厳選した『占領期雑誌資料大系』の刊行は、占領期の実態を把握し、占領期研究を前進させる上で必ずや役立つことだろうとの結論を得た。

 

『占領期雑誌資料大系』の刊行

 各分野で研究会をリードしてきた面々が『占領期雑誌資料大系』各編の責任編集を担うのに際し、膨大な雑誌記事の中からいかなる資料群を選定し、資料群の体系化を目指していかなる編成を案出すべきか、編者間の協議を経て、次のような編集方針を立てるに到った。

  1. ・敗北打ちのめされた虚脱感、絶望感と同時に、軍国主義から解放された民衆の新時代への夢と希望の表象を重視する。

  2. ・地方や底辺の雑誌に現れた庶民の言動を注視する。

  3. ・新しい権力であるGHQの指導や検閲に対する書き手や編集者の対応に着目する。

  4. ・資料大系を通して、占領期と現代の関係、とくにアメリカとの関係のありようを追求する手がかりを獲得する。

  5. ・写真、イラストなど、当時の版面のまま採録することで、文字表現のみならず、視覚的表現空間の豊かさや清新さを再現するよう心がける。

  6. ・データベースを駆使して作成した図版、数値、年表などの定量的な調査・分析データを付す。

 このような編集方針に基づいて2008年9月から『占領期雑誌資料大系』大衆文化編全5巻の刊行を始めた(2009年7月末に好評完結)。編者は石井仁志、谷川建司、原田健一の3氏である。

 また、2009年11月からは川崎賢子、宗像和重、十重田裕一の3氏が文学編の刊行を始めるべく現在鋭意編集中である。なお大衆文化編と同様に文学編も私が編者代表となっている。既刊の大衆文化編は早稲田大学図書館に所蔵されているし、生協書籍部にも陳列されているので、ぜひ手にとって欲しい。

 

○お知らせ

10月17日午後1時から現代政治経済研究所会議室(1号館2階)で佐藤卓己京都大学准教授などを呼んで合評会を行うので、これにも参加されたい。

※この記事は2009年8月に公開されたものです

 

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