0909-jiheisyo

自閉症研究の新たなスタートへ -遺伝子の異常と自閉症の関係が明らかに-

原著論文 Autistic-like phenotypes in Cadps2-kcockout mice and aberrant
CADPS2 splicing in autistic patients

 コミュニケーション障害や話し言葉の発達障害などを特徴とする自閉症。この病気は生まれつき脳に異常があるため、根っこから完全に問題を取り除くことはできず、大きな社会問題にもなっている。しかし、日頃の練習次第で、日常生活に支障がない程度にまで回復することが可能である。そして、希望となっているのは、この病気のメカニズムを知るために様々な研究が行われてきており、その過程でいくつかの遺伝子が自閉症の発症に関わっていることが分かったことである。中でも、CADPS2という遺伝子の機能が失われることが自閉症の発症に影響するのではないか、という研究成果が得られている。

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  この研究を進めているのは、理化学研究所脳科学総合研究センターのチームである。研究はCADPS2ノックアウトマウス(*1)を作ることから始まった。作ったマウスの行動を調べることで、CADPS2遺伝子が正常であるマウスとどのような違いが見られるかを観察したのである。自閉症患者といえば、どんな行動をとるだろうか?自閉症の子供は他の子供と協調して遊ぶということがなかったり、からだをくねらしたり前後にゆらしたりという、落ち着きのない行動をとったりする。この実験では、そのような特徴的な行動がノックアウトマウスにも見られたのである。
 
 このCADPS2遺伝子の欠損が実際に自閉症患者に見られるのか調べてみると、16人中4人に異常が見られた。そして、4人の患者はCADPS2遺伝子の一部分だけを欠損しているという特徴を持っていた。この部分が欠損していると、脳内の細胞でCADPS2タンパク質を輸送する運び屋がいなくなってしまい、すみずみまで行き渡ることができなくなってしまう。すると、CADPS2タンパク質の存在のおかげで分泌されていた、重要な栄養因子の分泌が減少してしまうのである。その結果として、自閉症のような症状がでるのではないかと考えられている。

 「遺伝子」と聞くと、「じゃあ自閉症の親をもつ子供は自閉症になるのか?」と思うかも知れないが、そうではない。自閉症患者の両親のCADPS2を調べてみると、2つの家系において両親とも正常であるという研究結果がでている。これは、欠損したCADPS2がそのまま子供に遺伝したわけではないということを示している。突然変異が起きたのだろうか。それとも別の理由があるのだろうか。このメカニズムを解明することは、未だ不透明である自閉症を知るための鍵となるだろう。

 研究結果から、CADPS2遺伝子の機能が失われることが自閉症の発症に影響するという結果が得られた。しかし、勘違いしてはいけないことは、CADPS2に異常があるからといって必ずしも自閉症を発症するわけではないということだ。あくまでもリスク要因の1つであって、他にも様々な要因が絡み合って発症する病気であると考えられる。

 自閉症の発症に関係する遺伝子の1つが特定できたことは、これからの自閉症研究にも大きな意味をもつ。この研究をスタートにして、CADPS2の機能や構造を解明するためにさらなる研究が続けられるだろう。

(*1)CADPS2ノックアウトマウス・・・CADPS2遺伝子をつぶしたマウス

参考文献
きっかけとなった記事
・理化学研究所(http://www.riken.go.jp/index_j.html)、
 http://www.rikenresearch.riken.jp/japan/research/252/、07/10/

・新しい自閉症の手引き
 (http://www.nucl.nagoya-u.ac.jp/~taco/aut-soc/rainman/index.html
 http://www.nucl.nagoya-u.ac.jp/~taco/aut-soc/rainman/autismQA-j.html、08/1/9

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