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ナース空を飛ぶ

~アメリカで活躍するフライトナース

 日本の先を行くアメリカの救急医療。広大な土地を持つアメリカの救急現場ではドクターヘリが欠かせない。それを支える豊富な専門知識を持ったフライトナースを紹介する。

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 ロチェスターにフライト要請!

 フライトナース。まだ聞きなれない言葉かもしれないが、ドクターヘリにパイロットと共に乗り、ヘリコプター内で救命処置を行いながら患者を病院まで搬送することを専門とする看護師だ。アメリカの看護師は日本よりも専門化が進んでおり、非常に高度なスキルを持っている。中でもフライトナースが求められるものは医師のスキルと同等といえ、看護師の判断で外科的処置を含む90以上の医療処置を行うことができる。ドクターヘリに医師が同乗せず、フライトナース2人で乗る理由もそのようなアメリカ医療システム・高い看護レベルを理解すれば納得できる。また、ナースであれば患者や家族の不安な思いにも気付くことができ、搬送までの時間で心のケアにも触れられる。

 ここMayo Clinic(メイヨークリニック:以下メイヨー)はアメリカミネソタ州ロチェスターにあり、世界でもトップレベルの医療ケアを提供する病院として、全米はもちろん世界に広く知られており、毎日多くの患者が訪れる。日本からミネアポリスまで11時間ーのフライトの後、バスに揺られること約2時間。小さな町ロチェスターだが、メイヨーの周辺は常ににぎわいをみせている。ここでフライトナースとして活躍するアラン・ベックストーム氏に話を聞いた。

 「コンニチワ」、現れるなり日本語での挨拶にこちらの緊張感もゆるみ笑顔になる。フライトナース歴8年という彼は、海軍にも所属しながらナースとして勤務するといった2つの顔を持つ。海軍では下関にいたことがあると聞き、なるほど日本語が話せるわけだ。温かく出迎えてくれたその瞬間にも緊急出動の呼び出しがかかるかもしれず、勤務中は常に緊張と隣り合わせだ。メイヨーは「Mayo One」と呼ばれるドクターヘリを3台、ジェット機を2台所有し、様々な緊急事態に対応している。

 

確かなテクニックと周囲との連携が命を救う

 ドクターヘリが導入されたのは1984年。以来24年あまりに渡って救急医療に貢献している。メイヨーからヘリで15分以内、30分以内、60分以内でたどりつける距離が把握されており、周囲との連携も密に行われている。この日まだ格納庫にあったヘリの内部を見ることができた。最大2人の患者を搬送できるその中はやはりアメリカンサイズ。日本のドクターヘリよりも広い作りになっていた。65種類の医薬品、心電図や除細動器など10種類の医療モニター、人工呼吸器、輸血用血液をはじめとした多くの物品が所狭しと、しかしスマートに収納されていた。空の上で一刻を争う救命処置が行われるわけだが、地上と違いヘリ内は狭く、揺れや大きな音などが処置をする際障害となる。そのため院内のER(救急救命室)での勤務以外に数百時間に及ぶトレーニングを行いようやくフライトナースになることができるのだ。 

 出動件数は日によって差があるものの、1日平均3~5件ほど。特徴的なのは、アメリカの航空会社ノースウエストと連携をはかっており、機内で急病人が出た際機内に常備してある医療キットを使用して処置ができるよう、無線を使いフライトナースが指導していることだ。ミネソタにあるミネアポリス空港に着陸後、メイヨーに搬送されてくることもあるという。日本のドクターヘリは人員・経済性等多くの問題を抱えており、これらを解決していかに定着させるかが課題といえよう。ここまでの連携がとれるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 ヘリを囲み話を聞いていたその時、緊急出動を知らせるブザーとアナウンスが鳴り響き、彼の顔は一瞬にしてフライトナースの顔になった。まさにプロフェッショナル。Mayo Oneはフライトナースを乗せ今日もミネソタの空を飛んでいる。

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