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司法改革に何を思うか

~法曹を目指す学生たち~

 日本の司法界は現在、変革と混乱の中にある。国民の十分な支持を得ることができないまま開始された裁判員制度はその最たる例だ。混乱の中に身を置く法科大学院生や法科大学院入学を目指す法学部生に、新司法試験と法科大学院教育に関する意見を聞いてみた。

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低迷する法科大学院人気

 新司法試験と法科大学院制度は、専門性をもった多様な法曹の社会への輩出と、法曹人口の増加を目的にスタートした。当初の計画では、低合格率だった旧司法試験とは異なり、新司法試験の合格率を7,8割とし、法科大学院修了者の大半に法曹資格を与える予定だった。

 しかし想定以上の数の法科大学院が開校されたこともあり、新司法試験の合格率は2006年度が48%、07年40%、08年33%、09年27.6%と、当初に予想されたよりも、はるかに低いものとなった。また社会の受け皿が充分でないことから、新司法試験に合格した弁護士が就職難に陥るなどの問題も指摘される。こうした理由から、法科大学院への志願者は年々減少している。特に社会人や法学部以外の学部出身者の志望者が減少し、専門性を持った法曹を輩出するという当初の法科大学院の目的の達成が困難になってきている。

 こうした問題に対処すべく、中央教育審議会は2009年4月17日、法科大学院各校に定員の削減を提言した。定員を減らすことで、入試の難易度が上がり、入学者の質が担保され、少人数教育によって講義の質も向上する。また新司法試験の受験者数が抑制されることで合格率も上向くと期待されているのである。

 

ソクラテスメソッドの是非

 この対応について法科大学院生の反応は様々だ。東京大学法科大学院2年生の小郷誠さんは、「定員削減によって、講義内で教員と学生が対話をしながら法学への理解を深めてゆく『ソクラテスメソッド』の授業が充実する」と、好意的に捉えている。現在、大学院で行われているソクラテスメソッド形式の講義は受講生が60人規模で、発言する機会が非常に少ない。小郷さんは定員削減によって発言機会が増えることを期待し、「考えを口に出してアウトプットすることは、法律の理解を深める上で有用だ。加えて法曹実務において求められる弁論能力を高めることもできる」と話す。
 一方、早稲田大学法科大学院1年生の丸住憲司さんは、定員削減には懐疑的だ。その理由として、ソクラテスメソッド形式の講義を充実したものにするには、法律に関する十分な知識が前提となることを挙げる。丸住さんは経済学部を卒業し、今春に法科大学院に入学した法学未習者だ。「法律に関する知識が十分でないうちから議論をしても、その議論は充実したものにはならない」と丸住さん。そして知識を蓄えるために行われる座学ならば、人数の大小は関係ないとする。


理想的な新司法試験合格率とは

 当初の想定を大きく下回る新司法試験の合格率の捉え方についても意見は様々だ。早稲田大学法科大学院1年生の前田優花さんは「合格率は現状より高い方が望ましい」とする。前田さんは「合格率を上げ、一人でも多くの法曹を社会へ輩出するべきだと思います。そうすることで、消費者に弁護士を選択する自由が与えられ、消費者に支持される有能な弁護士が自然と生き残るようになる。弁護士業界にも自由競争が必要。特権階級として全ての弁護士が保護される時代は終わるべきです」と話した。

 しかし丸住さんは、この前田さんの考え方に疑問を呈する。丸住さんは「市場原理は弁護士業界ではうまく働かないと思う。現状では弁護士に関する情報を消費者側は十分に持っていないため、有能な弁護士を選択することはできない。法曹の質を確保するためには、やはり司法試験を難化させ、そこで十分に絞るべきだ」と話す。丸住さんは新司法試験が相対評価である点も問題視している。法曹としての質を担保することが目的であるなら、試験で一定の得点に達した受験者全員に資格を与える、絶対評価式の試験に変更すべきだというのだ。

 

新司法試験はチャンス

 司法改革に関して、それぞれ意見が異なる点も多いが、一致する点もある。それは当初の想定を大きく下回り、3割程度となっている新司法試験の合格率を悲観的に捉えていない点だ。早稲田大学法学部4年生で来年度の法科大学院入学を目指している陶隆輝さんは「合格率が1割にも満たない旧司法試験に比べれば、3,4割の合格率でも十分に高い。頑張れば合格する可能性がある」と話す。同じく早稲田大学法学部4年生の高畑ゆいさんも「旧司法試験に比べればチャンスが広がったことは間違いない。合格率が7,8割を下回ることは、当初の想定より多くの法科大学院が設立された時点でわかっていたことです」と、大きな不安はない。


 司法試験合格という目標を達成するために、法曹志望の学生達は日夜必死に勉学に励んでいる。朝から晩まで図書館や自宅にこもり、一日を終えることも珍しくない。彼らの生活サイクルは一般の学生のそれとは大きく異なる。彼らの努力を持続させている源は、法曹として活躍したいという強い思いだ。話を聞いた5人の学生は皆、目標とする法曹像だけではなく、あるべき法曹界の姿という所にまで思いを馳せていた。
 司法界は改革の真っただ中にあり、その先行きは不明瞭だ。しかし懸命に努力する学生達の姿越しには、司法界の明るい未来が垣間見える気がした。

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