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自閉症研究の新たなスタートへ ~遺伝子の異常と自閉症の関係が明らかに

生まれつきある脳の異常が原因となる自閉症は、根本からの治療ができない。この病気のメカニズムを知るために様々な研究が行われているが、CADPS2という遺伝子の機能が失われることが自閉症の発症に影響するのではないか、という研究成果が得られた。

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 コミュニケーション障害や話し言葉の発達障害などを特徴とする自閉症。この病気は生まれつきある脳の異常が原因であるため、根本から完全に問題を取り除くことはできず、大きな社会問題にもなっている。しかし、日頃の練習次第で日常生活に支障がない程度にまで回復することが可能である。この病気のメカニズムを知るために様々な研究が行われてきており、その過程でいくつかの遺伝子が自閉症の発症に関わっていることが分かった。中でも、CADPS2という遺伝子の機能が失われることが自閉症の発症に影響するのではないか、という研究成果が得られている。

 この研究を進めているのは、理化学研究所脳科学総合研究センターのチームである。研究はCADPS2ノックアウトマウス(CADPS2遺伝子をつぶしたマウス)を作ることから始まった。作ったマウスの行動を調べ、CADPS2遺伝子が正常であるマウスとどのような違いが見られるかを観察したのである。自閉症患者の特徴的な行動は、自閉症の子供は他の子供と協調して遊ぶということがなかったり、からだをくねらしたり前後にゆらしたりという、落ち着きのない行動をとったりすることである。この実験では、そのような特徴的な行動がノックアウトマウスにも見られたのである。

 このCADPS2遺伝子の欠損が実際に自閉症患者に見られるのかを調べてみると、16人中4人に異常がみられ、CADPS2遺伝子の一部分だけが欠損しているという特徴があった。欠損によって、脳内の細胞を行き交う運び屋がいなくなってしまい、CADPS2タンパク質がすみずみまで行き渡ることができなくなってしまう。すると、CADPS2タンパク質の存在のおかげで分泌されていた重要な栄養因子の分泌が減少し、その結果として、自閉症のような症状がでるのではないかと考えられている。

「遺伝子」と聞くと、「じゃあ自閉症の親をもつ子供は自閉症になるのか?」と思うかも知れないが、そうではない。自閉症患者の両親のCADPS2は、2つの家系においてどちらも正常であるという研究結果が、欠損したCADPS2がそのまま子供に遺伝したわけではないということを示している。突然変異が起きたのだろうか。それとも別の理由があるのだろうか。この遺伝子異常のメカニズムを解明は、未だ不透明な自閉症のメカニズムを知るための鍵となるだろう。

 研究結果から、CADPS2遺伝子の機能が失われることが自閉症の発症に影響することがわかった。しかし、勘違いしてはいけないことは、CADPS2に異常があるからといって必ずしも自閉症を発症するわけではないということだ。それはあくまでもリスク要因の1つであって、自閉症は他にも様々な要因が絡み合って発症する病気であると考えられている。
 発症に関係する遺伝子の1つが特定できたことは、これからの自閉症研究に大きな意味をもつ。今回の成果を出発点として、CADPS2の機能や構造を解明するためにさらなる研究が続けられるだろう。

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■参照資料
・原著論文:Sadakata T, Washida M, Iwayama Y, et al.”“Autistic-like phenotypes in Cadps2-knockout mice and aberrant CADPS2 splicing in autistic patients.” J Clin Invest. 2007 Apr;117(4):931-43. Epub 2007 Mar 22.
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