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遺伝子組み換え食品にみるメディアの「二分法的判断」の罠

 私たちが漠然と抱いている「遺伝子組み換え食品は危険」という意識。だが、私たちはそのことについてあまりにも無知である。それにも関わらず、一方的に「危険だ」と判断してしまうのはなぜか。そこにはメディアの影響力が働いているのではないだろうか。

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 「遺伝子組み換え食品は危険」?

  「飲むだけでダイエット」「食べれば病気が治る」「視力回復」――さまざまな“健康食品”がメディアの狭間で見かけられる。自身も子どもの頃は「すげぇコレ欲しぃー」とよく思った。しかし成長とともに,それらが成功の要因になるには天文学的確率に近いということが分かる。だが,世間には純粋に,テレビや雑誌に現れる巧みな「専門家」の言うことを鵜呑みにしてしまう人もいる。そうでなければ「ひょっとしたら」とうっかり信じそうになってくる。「そんなばかな。胡散臭い」なんて思ったアナタ。では,コレはどうか。

 

「遺伝子組み換え食品は危険なので,食べられない」

 

 これには「ひょっとしたら」と思う人も多いのではないだろうか。遺伝子組み換え食品が世に出るようになってから囁かれている「組み換え=毒」のイメージ。マスコミは一時期こぞって取り上げ,それに世間が反応し,食品表示には「○○(遺伝子組み換えでない)」などという但し書きまで載せられるようになった。

 

「だって危ないじゃない。毒なんて入ってたら」「安全かなんて信用できない」

 

 確かにそれは一理ある。では逆に我々はそれだけ詳しくこのことを知っているのだろうか?そもそも「組み換え」って何をどうしているのか?それらを専門的に学んでいないのに,「安全・危険」なんて考えはどこからか導き出せるのか。それが,恐らくは日本のメディアである。

 ここに一枚の論文がある。遺伝子組み換えトウモロコシによる肝・腎臓への毒性の可能性を示唆した論文だ。安全と認められた米企業の遺伝子組み換えトウモロコシの経口試験データをフランスの研究グループが再分析し,結果を発表したものである。彼らの分析結果によれば,遺伝子組み換え食品と通常の食品を与えたときのマウスの成長の度合いが異なり,また臓器の残留物・排出物の量も異なるとされている。

 

「ほらやっぱり危ないんじゃないか!」「絶対買わない!」

 

――ここだ。記事になった新聞の大半は「毒性の危険性」などと見出しをつけ,このことを主張していた(少なくともいるように読めた)。ここで記事が終わったら何も知らない多くの人はこう感じるだろう。だが,この話をもっと冷静に,広い視野でみると,とんでもない見落としがあることに気づくのだが…いかがだろうか。

 もう一度文章を読み直して欲しい。仏が用いたデータは以前米国が安全と認めたデータと全く同じなのだ。彼らはそれを再分析したに過ぎない。そして「米国のデータの用い方に偽りはなかった」という趣旨のことも論文に書いている。

 つまり,もとのデータは同じであり,そのデータの僅かな誤差について全く別の見解を示しているということになる。データのまとめ方にはいくつかの方法があるので,要するに米国はその方法のうちに結果の良いものを,仏国は悪い方を提示しているだけなのだ。実際この仏グループの論文でも,グラフをよく見ると相関関係にある箇所とない箇所があり,何とも言い難い。

 

――というわけである。遺伝子組み換え問題は実際のところ『安全・危険』でいえばまだ「真ん中の点」だ。しかし,我々世間にはグレーという発想があまりない。それはひとえに日本の色分けしたがるマスコミの影響もあろう。だが日々進歩し続ける科学の中で,常に白か黒が分かるのはおかしい。そこには時間と論議の果てに明らかになる謎があり,白黒の議論を重ねることこそが大事な時期があるのだ。

 実際に「遺伝子組み換え食物を広めない」ように活動し,訴えている団体もある。彼らに組み換え遺伝子が「いかに危険か」というのを“いかにもそれらしいデータとして”示しながら説いている反対派の専門家もいる(そして現在も,この手の論文はその信憑性という点で物議をかもしている)。

 

情報が「ない」ことを知る必要

 冒頭のメッセージは伝わっただろうか。我々はものごとを両極で見がちである。だが遺伝子組み換え食物のように,充分な情報がない間は,「ない」ということを念頭に置き,常に落ち着いて流れをみつめることだ。メディアだけに一存せず,少し離れて見ることも求められている。

 

 「遺伝子組み換え,安全性の証明には未だ長期の試験が必要」

 

 実際仏のグループの論文ではこのような1文も見られた。そしてこれは新聞記事の片隅ではなく,見出しとして,用いられるべきだろう。

「遺伝子組み換え食品は危険なので,食べられない」の問いに,アナタは今,本当に答えることができるだろうか。

 

○参考文献

New Analysis of Rat Feeding Study with a Genetically Modified Maize Reveals Signs of Hepatorenal Toxicity(Gilles-Eric Seralini, Dominique Celler, Joel Spiroux de Vendomois)

 

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