アルジャジーラに見る「メディア企業たる覚悟」

 アメリカの新大統領バラク・オバマが就任した。新時代の大統領として期待されている彼の発表した施策で目をひいいたのは、「グアンタナモ収容所の閉鎖」だ。  このニュースを聞いて、ボクはアルジャジーラのサミのことを思い出した。…

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 アメリカの新大統領バラク・オバマが就任した。新時代の大統領として期待されている彼の発表した施策で目をひいいたのは、「グアンタナモ収容所の閉鎖」だ。

 このニュースを聞いて、ボクはアルジャジーラのサミのことを思い出した。

アルジャジーラのサミ

 ボクは2008年10〜11月の1ヶ月間、アルジャジーラ・メディア訓練開発センターに滞在し、その期間内に行われた同局12周年式典に参列した。そこに登場し大きな拍手を浴びた人物がサミである。サミはアルジャジーラの取材カメラマン。イラク戦争中の2001年12月、パキスタンで当局に拘束され、米軍グアンタナモ収容所に6年間収容されていたのだ。

 彼は単に取材活動のためにパキスタンに滞在していたに過ぎない。犯罪者でも戦争捕虜でもないはずだが、米軍に「逮捕」された。なぜなのだろうか。表向きはテロ容疑だとされている。しかし、その容疑を裏付ける証拠はない。それどころか、アルジャジーラの記者であるために、当局が恣意的に拘束したとの観測が多勢である。

 程度の差こそあれ、すべてのメディア人は国家権力に拘束される可能性と隣り合わせに仕事をしている。われわれにとっても他人事ではない。日本は戦地ではないが、警察の任意同行を拒否できないシチュエーションは多いのだ。拒否すれば転び公妨で逮捕されてしまう恐れもある。



ボクの経験

 サミが拘束されている6年の間、アルジャジーラは彼の家族を本社のあるドーハに呼び寄せ生活の面倒を見ていたという。この話を聞いて思い出した経験がある。ボクのような底辺メディア人でも、権力に拘束されたことがあるのだ。しかも、その際の所属先の対応は、アルジャジーラとは対照的なものだった。

 週刊誌の常駐契約カメラマンとして働いていたころ、首都高速PAでの無許可取材との理由で交通機動隊に連行された。写真を撮ったからとて違法ではない。もし違法ならば、海ほたるなどで記念写真を撮っている人たちは全員逮捕である。

 深夜の編集部にも写真室にも誰もいなかった。責任者も電話に出なかった。しかたなく任意同行に応じたボクらは明け方に解放された。何の犯罪も犯していないのだから当然である。ボクは、翌朝出勤してきた責任者に「どうすれば良かったのか」とたずねた。その問いへの答えは耳を疑うものだった。

「帰ってこれたからよかったじゃないの」

 権力の横暴に対して、どういう方針で取材活動をするのかという問いへの答えがこれで大変にガッカリした。法理をもとに現場で抵抗せよとか、その場は警察に従っておいて後に正式に抗議する、といった答えを期待していたのにである。

 サミが権力から受けた扱いは、ボクとはレベルが違うが形式的には同じである。ジャーナリズムと大上段に振りかぶる必要性はないだろうが、メディアやコンテンツにかかわって生きていく人にとって、いざという時に所属組織やクライアントが守ってくれるかどうかは重大な問題である。少なくともアルジャジーラは、記者の自己責任とか言ったりせずに守ってくれたわけだ。


 オバマの就任で思い出したアルジャジーラでのインターン研修の思い出は、メディア産業/コンテンツ産業のあり方に改めて思いを馳せさせてくれたものであった。


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【取材・執筆・撮影:藤吉隆雄】

(スチルカメラマン/科学技術リポーター/MAJESTy)