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「日本人になる」をめざす帰国子女

筑波大学大学院でシステム工学を学んでいる徳田勇也さん(22)は、父親の転勤をきっかけに幼稚園から高校までの大半の期間をフランスとスウェーデンで暮らした帰国子女だ。見た目は日本人学生と変わらないが、性格はヨーロッパ人に近く、まわりの学生は自分を日本人として扱っていないと感じている。彼は自分をどう認識するのか、海外生活経験、さらには留学生との共通点について、聞いた。

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――幼稚園の時にフランスに移りました。友だちはできましたか。

「フランス語がわからないので、最初は喋れませんでした。偶然、幼稚園に日本語ができるフランス人の先生がいて、その人と話しながら、ちょっとずつ学んでいった。最初にクラスメートから学んだフランス語は”Ce n’est pas ma faute.”でした。日本語では『俺のせいじゃない』です。なぜかというと、あっちでは自分の身は自分で守らなきゃいけないからです」

――18歳で日本に戻りました。驚いたことは何ですか。

「愛想がないことです。ヨーロッパだと、転校生が入ってくると誰が先かみたいに、仲間に入れるために、みんなものすごく話しかけてきます。でも日本に帰ったとき、日本の学生たちは普段通りで、非常に驚きました」

――日本人学生との間に何か異なっていることに気づきましたか。それは何ですか。

「長年のヨーロッパ生活で、自分の性格は非常に外向きで、好き嫌いがはっきりするようになりました。積極的に行動する性格も持っています。一方、まわりの日本人学生は無関心や面倒くさがりを表すことが強く、『こういうのやろうよ』と誘っても、『え? 面倒くさいよ』と言い返されます。例えば、大学4年間をかけて、一緒にバスケットボールをやろうと積極的に声をかけてきましたが、一緒に遊べる人は誰もできませんでした。日本人の『暗黙の常識』にぶつかりました。みんなは『そんなものはないよ』と言いますが、どう考えても、自分が浮いちゃっています」

――いま、まわりの日本人学生はあなたを日本人だと認めると思いますか。

「日本人として扱っていないと思います。でも逆に、何か変なことをしても、帰国子女だから許してくれるという利点もあります」

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――徳田さんは自分を日本人だと思いますか。それはなぜですか。

「自分は日本人だと主張します。親が海外へ連れていった理由はあっちの教育を受けさせたかったから。外国人になるためではなく、外国人に勝る日本人になるためです。負けない日本人になることは自分の最終目標だと本気で思っています。僕は自分が日本人だと自覚しているものの、周りは認めてくれませんが、それはかまわないです。自分は自分です。他人は自分のことをバカと思っても、自分はバカになるわけではないですから。それと同じで、他人から日本人だと思われなくても、自分が日本人だと思えば、日本人です」

――なぜ自分は日本人だと強く主張したいのでしょう。

「多分日本で生まれたということが大きいですが、何だかんだ言っても日本が好きだからだと思います」

――徳田さんが考える「日本人」の定義は?

「血とか国籍とかそういうものに関係なく、日本の良き心を知り、日本の良い面も悪い面も受け入れ、その上でどこの国に行っても自分が日本人であることに誇り思える人のことだと思います」

――今、ドラえもんが現れて、タイムスリップが出来るとします。昔にもどって、ずっと日本で暮らすことと海外で暮らすことを選べるなら、どちらにしますか。

「正直に言うなら、日本でずっと暮らすことを経験したいですが、でも1回しか選択できないなら、やっぱり海外の生活を経験したいです。もう1回チャンスがくれれば、もっと海外でいっぱい勉強したいからです。また、自分自身の境遇が気に入っているので、海外でよかったと思います」

――今後、日本国内と海外と、どちらに就職したいですか。

「自分の境遇を最大限に活用したいので、日本の企業に入ったとしても、海外に関係がある企業で積極的にやりたい。就活の時に『俺は海外で働けるので、海外で戦わせてほしい』と積極的にアピールしてきたいです」

――帰国子女と同様、留学生も日本社会への適応には苦労しています。どういう工夫をしたらいいですか。

「まず、よく日本人と接して、日本社会を勉強することが大事です。留学生同士で集まっていると、それは学べないでしょう。日本人らしい『空気』は気にしなくていいと思います。無理に気にしようとすると、逆にうまくいかなくなることがありますから。最後は、自分が正しいと思うことをしっかり貫き通すことが大切だと思います」

 

取材を終えて

徳田さんはこれまで会った帰国子女とは違った。外国風の自分を無理に隠したりほかの日本人学生の振りをまねしたりするのではなく、「自分の境遇を最大限に利用したい」と考え、主張する人だ。留学生の立場から見ると、彼の異文化適応に対する考え方には同感できる。日本の事情を学びたいなら、留学生同士でかたまっていたら難しい。日本という異文化に上手に適応するとともに、個性を守ることも大事である。これは「同を求め、異を認め」という考え方である。

プロフィール

徳田勇也

1989年に日本で生まれ、茨城県出身(22歳)

経営コンサルティングの仕事を勤める父親の海外転勤をきっかけに、5歳から海外での生活が始まった。

5歳~9歳  フランス当地の幼稚園と小学校前半

9歳~10歳  一年だけ日本の小学校に入った

10歳~18歳 スウェーデンのインターナショナルスクールに入った

話せる言語:日本語、英語、フランス語、スウェーデン語

筑波大学 システム情報工学研究科1年次 知能機能システム専攻

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※この記事は、2011年度J-School春学期授業「ニューズルームE」(刀祢館正明講師)において作成しました。