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銀座にあふれる中国人観光客、その買い物パワーは本当?

東京を代表する繁華街、銀座。通りをぶらつくと、歩道を埋め、店にあふれる中国人の多さに驚かされる。銀座1丁目と8丁目の路肩には、中国人ツアー客を運ぶ観光バスが毎日ぎっしりと並ぶ。迎え入れる大手百貨店や専門店は、中国人客への対応で必死だ。しかし、彼らは期待通りにたくさんの買い物をしているのだろうか。

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  今年7月1日から、中国人の個人観光ビザの取得要件が緩和され、中間所得層まで広がった。対象はこれまでの10倍、約1600万世帯だという。日本国内の消費低迷に悩む小売店では、中国人客を呼び込もうと、様々な取り組みをしている。

  銀座中央通りでは、「欢迎使用银联卡」のマークがほとんどの店舗に張ってある。「銀聯カードの使用を歓迎します」という意味だ。中国銀聯カードは中国のデビットカードで、日本で約2年前から使えるようになった。

  訪れるのは多くがツアー客。ガイドも含めてほとんどの人は日本語が話せない。そこで、中国語の掲示をしたり中国人スタッフを置いたりしている店は少なくない。

  銀座5丁目のユニクロ銀座店は、メンズとレディスが二つのビルに分かれているため、両方の入り口にきちんとした中国語の説明がある。「こういう中国語訳は本社から配られたものもありますし、中国人スタッフが訳したものもあります」と、店長の阿南利美さん(31)は話す。売り場には中国語で対応できるスタッフを配置しており、日本人スタッフも、簡単な質問には筆談で答えられるよう、常に手元にメモを用意している。

  奇妙な中国語も目に付く。大手スポーツ用品店では、「MEN’S」と「WOMEN’S」の下に、「男性的」、「女性的」と中国語が添えられている。だが、「的」は中国語では形容詞を意味し、正しくは「男装」と「女装 」だ。店のスタッフによると、昨年7月、中国人の個人観光ビザの発給が始まった時期に、本社から指示があったという。ある日本料理店も「熱烈歓迎」と大書した紙4枚を店名の横に張り出している。白い紙に黒い文字を印刷しただけで、安っぽい感じだ。近くのジュエリー店の店員に感想を聞くと、「粗末なものでもいい、少しでも努力して売上を取りたいのは私たちも同じ」と話す。

  紳士服販売のAOKI銀座店の総店長、五味正光さん(38)によると、同社も中国人客を増やす工夫してきた。例えば、都心大型店舗に必ず中国人従業員を配置する。銀座店では、3人の中国人スタッフの出勤日をずらしており、常に1人は対応できる。「Made in Japan」しか買わないという中国人客も多いことから、日本製、日本限定商品・モデルをアピールしている。店内で、上海から来た項建偉さん(41)に尋ねると、「せっかく日本へ来たから、中国製のプレゼントなんかを買って帰ったら、馬鹿にされるよ」と笑った。五味総店長は、「来店の中国人客は確かに多いが、これから成約率を高めることが課題ですね」と話す。

  銀座の商店主らでつくる銀座通連合会は、銀聯カードの導入をすすめ、いろいろ工夫した観光マップを作成している。ただ、銀座で実際に大量の買い物をする中国人はそれほど多くないとみており、担当者は「ビザ緩和の時点から一変するはずがない。ツアー客の滞在時間は1.5から2時間だけなので、初めて銀座に訪れる時に銀座の魅力を分かってもらって、2回目、3回目にお金を使ってほしい」と話す。

  中国ニュース通信社、Record Chinaが報じたSBIチャイナブランディングとSBIリサーチによる中国人訪日客調査によると、ショッピングで訪れる街のトップは銀座で、次が秋葉原。銀座では化粧品や洋服、秋葉原では電器・電子製品を購入する人が多かった。逆に言うと、それ以外の店はもっぱらウインドーショッピングの対象となりかねない。観光バスに乗ろうとしていた中国人数人に聞くと、「銀座での時間が1時間ちょっとしかないから、ゆっくり買い物できない。しかも、ガイドが銀座は物が高いと言ったから、見るだけにした」と口をそろえて語った。

  東京商工会議所中央支部の担当者は「銀座の大手商店はすでに中国人スタッフを雇用したりしていますが、中小企業は、まだ適切な対策を探しています」と話す。中国人客と店舗の間で需要と供給のセンスがすれ違っているか可能性もあり、今後、「中国パワー」が日本の消費低迷を救えるかどうか、小売店側の対応に左右される部分も大きいようだ。

 

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※この記事は、10年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。

 

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