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伝統の味にじむ「小江戸川越」

都心から電車で1時間。古き良き時代がよみがえる観光都市がある。蔵造りの商店が軒を連ねる埼玉県の「小江戸」、川越。昨年、放映されたNHK連続テレビ小説「つばさ」の舞台にもなった。かつては地方の一商店街にすぎなかった街が、今は観光客であふれかえる。そこには、地元のきずなと持ち味を活かす町づくりがあった。

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  「ゴーン、ゴーン」。約430mにわたって蔵造りの店が並ぶ一番街商店街に、鐘の音が響く。約400年間、時刻を知らせてきた時計台の「時の鐘」だ。甘いにおいが漂う20数軒の菓子屋横丁に観光客が群がっている。「ぜひ食べてみて」。稲葉屋おかみさんの長井千代子さん(68)は、自慢の芋ドーナツをお皿にのせて、店を飛び出した。観光客の一人は「また足を運びたくなる。温かい雰囲気がいい」と話す。

  平成21年に川越を訪れた観光客数は対前年比3.8%増の627万人。日本三景の松島・塩竈に並ぶにぎわいだ。だが、これまでの道のりは遠かった。川越おかみさん会・会長の栗原裕子さん(69)は、「昔は店頭で率先して商売する姿はあまりなかった」と語る。

  川越の観光の目玉は、以前はさつまいも掘りと、「徳川家光誕生の間」がある喜多院、市内最大のイベントである「川越まつり」であった。高度経済成長期には、蔵造りの商店は「モダンでない」と、客足も止まり、川越の中心は利便性の高い駅周辺に移った。

  1792年に建築された豪商の店舗蔵、「大沢家住宅」が、1971年に国の重要文化財の指定を受けて、風向きが変わる。蔵への見方が「価値ある建物」へと変わっていった。だが、放っておくと、現代の生活には不便な蔵は取り壊されてしまう。1987年に店主たちは、蔵を活用した活性化をめざして「町並み委員会」を立ち上げた。看板や外壁など外観を変えるときは、67項目の「町づくり規範」に基づいて協議している。

  1648年以来の歴史をもつ「川越まつり」も、思い切り活用することにした。観光客が来やすいようにと、1997年、開催日を毎年10月14日・15日から、10月の第3土曜と日曜に変更。市内の百貨店から山車が寄贈され、山車を持たない町内の子どもたちでもひけるようにした。

  また、祭り以外の時も楽しめるように、「川越まつり会館」を設け、29台ある山車の中から交替で2台展示し、祝日と日曜日におはやしを実演している。「私と同い年の山車には見えないでしょ」と、観光客に笑顔で説明するのは、湯根茂さん(71)。製造会社を定年退職した後に案内人を務めている。館長の菅原核夫さん(52)は、「川越まつりは、地元の人にとってなくてはならないもの。魅力をどんどん伝えていきたい」と話す。

  活気ある商店街にはいつも明るいおかみさんたちがいる。「お客様への温かい気持ちを大切に」。商店のおかみさんたちで作る川越おかみさん会は、商家をまわって「おもてなし心」を呼びかけた。すると、みんなが店先に出てくるようになり、お客が集まるようになった。昨年、おかみさん会は、全国のおかみさんを川越に招いて「全国交流サミット」を開いた。ニューヨークから和太鼓とタップを奏でる「鼓舞組」を招くなど、イベントにも力を入れている。

  川越市産業観光部観光課の飯野英一さん(43)は、「あぐらをかいてはいけない。まだ、川越には利用できていない古い建物が残っている。リピーターを増やすためにもうまく使っていきたい」と話している。

 

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※この記事は、10年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。