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震災疎開パッケージ

商店会発、地震保険と地域間交流

早稲田発のユニークな地震保険がある。2002年に早稲田商店会が開発した「震災疎開パッケージ」だ。他の地震保険と一味違い、被災時の疎開支援を特色とする同パッケージについて取材した。

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大事なのは昔からのコミュニティー

 「震災疎開パッケージ」を主宰するのは全国の商店会の互助を目的として設立されたNPO法人「全国商店街まちづくり実行委員会」だ。

 全国の商店街で、1家族(同居5人まで)に対し1年間10,500円で販売している。保障期間中に地震や噴火、津波などで災害救助法が発令された場合、見舞金2万円と、協力を申し出た疎開先へ行く交通費、ホテル・旅館の滞在費(延べ30日以内)が保証される。震災が起きなければ、2年目以降、コメや果物など疎開先の特産品が加入者に送られる。

 考案したのは、当時、早稲田商店会長を務めていた安井潤一郎・現衆院議員(58)と早稲田商店会。安井議員は商店会長時代から環境を切り口とした商店街活動に取り組み、修学旅行生が見学に訪れるような商店会にするなど、商店会からの町づくりに実績をあげてきた人物だ。安井議員に「震災疎開パッケージ」を考案した経緯などについて話をうかがった。

 防災に取り組むきっかけとなったのは、1995年の阪神大震災で被災した、神戸市長田区の商店会との交流だった。家族を失い、被災者住宅に機械的に振り分けられたお年寄りが、コミュニティーと切り離されたため、自殺していった現実を知らされた。話を聞いた安井議員は涙が止まらなかったという。  震災対策をやらねばならない。大事なのは昔からのコミュニティーだ。そのためには町を動かさなければならない――。そう考えるようになった。

 

震災を切り口にした地域間交流、物流、商流

 「町を動かすには『儲かって楽しい』がなければならない。これは商店会の一連の活動を通して学んだことです。ただ、「儲ける」は金銭的なものだけではない。精神的・肉体的に『儲ける』『得をする』というものもある」  何かに取り組むことで、コミュニティーにかかわる多くの人が「得をする」方法はないか。その考えを具体化したのが「震災疎開パッケージ」だった。安井議員は同パッケージの特徴を「震災を切り口にした地域間交流、物流、商流です」と語る。

 災害時の疎開先は、ただ用意すればいいわけではない。戦時中の疎開では、疎開した人が「ヨソ者」といじめにあうことも珍しくなかった。だから、商店会側では疎開先を下見ツアーで訪れ、田植えなどの農業体験や宴会など、事前の交流を深めている。知らないところに疎開するのではなく、あらかじめ下調べをして疎開先を選べるという。

 受け入れ側が『得をする』メリットもある。下見ツアーのほか、2年目以降に加入者に送られる各地域の特産品は、土地の格好の宣伝になる。その代金はパッケージの代金に含まれているので、負担なしでできる宣伝活動だ。新潟県入広瀬村など名乗りを上げてくる町も出てきた。

 「震災疎開パッケージ」はまだ発展途上だ。2008年現在で加入者数は約100所帯300人程度。主宰である「全国商店街まちづくり実行委員会」は今年NPO法人として認可され、活動を本格化させていく予定だ。無料で参加できるツアーなども計画している。

 地域間のネットワークを生かす震災疎開パッケージ。災害時の対策として、選択肢に入れることができると感じた。

 

○外部リンク:NPO法人全国商店街まちづくり実行委員会

 

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※この記事は、08年前期のJ-School講義「ニューズルームD」において、瀬川至朗先生の指導のもとに作成しました。