【解説】手続き透明化のためシステムの改善が必要

「調査報道の方法」取材班は、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコースの授業「調査報道の方法」のなかに設けられた。現役記者を講師に招き、その指導を受けつつ調査報道の実習をした。

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公開情報に基づき放置事例を発見

 記者の調査は、政府の電子政府の総合窓口(e-Gov)に掲示されている公開情報に基づくものだ。その分析で長期間結果が公示されていない例があることを発見し、指摘を受けた厚労省などが是正に努めたことによって、行政手続法違反事例の存在が明らかになった。

 公示によって行政手続法違反の状態にあったかどうかが把握できるので、もし、各府省がそのまま放置し、結果の公示をしないままであれば、政令等が公布されたかどうか調べることも難しい。どのような意見がどのくらい出されたのか、それに対して政府がどのように考え、対応したかもわからない。「手続の透明化」のためにはシステムの改善が必要だと思われる。

 

府省の認識不足に原因

 今回の調査では、明らかな行政手続法違反として、公布から1年という期間を一つの目安とした。同法が求める「同時期」の範囲が曖昧だからだ。2005年の改正行政手続で規定を設けた当時の総務省行政管理局長は、「基本的に同時」としながらも、「何日以内という基準が考えられるものではない。事務的に若干遅延がある場合、先立つ場合は許容される」との解釈を示している。

 国民の立場からは、公布から1ヵ月遅れであっても同法違反とみることができる。1ヵ月(31日)を尺度とすると、今年1月に結果公示された72件のうち半数以上の37件が同法違反となる。

 府省の中には、電子政府に関する連絡会議で決められているe-Govでの公示の重要性を認識していないところもある。2006年3月、二階経済産業大臣は、「e-Govへの掲載を省議において徹底したい」と国会で答弁したが、経産省は、その2ヵ月後に締め切った意見公募の結果公示をまだしていない。990日を超し、現在未公示の案件中、最も古い。

 

麻疹、風疹関連の意見公募も放置

 今年1月、政令等の公布から1年以上遅れて結果が公示された24件の中には、麻疹と風疹の定期予防接種の対象者として中学1年生と高校3年生を追加することに関連した「予防接種法施行令の一部を改正する政令」などに関する2つの意見公募が含まれていた。それぞれ62件の意見が寄せられたが、一つは338日、もう一つは399日結果を公示していなかった。

 最近、この特定年齢対象の予防接種率が低いため、厚労省が文部科学省に協力を求める文書を送ったとの報道があった。厚労省は、意見公募手続きに基づいて意見を出した人々が、その状況や特定年齢対象の予防接種に関する情報を得る機会を長期間失われていたことを認識し、国民にきちんと政策を知らせることの重要性を感じてほしい。

 行政が、パブリックコメントの制度を重視しない姿勢を見直すことは当然だが、こうした現状を生み出すシステムの改善、継続的に市民がチェックを実施していく体制づくりについても考える必要があるだろう。