北九州で科学技術ジャーナリズムを考えた

  休み期間の集中公開講座として実施しているMAJESTy’s BOOT CAMPが、この春は北九州市で開催されました。5名のMAJESTy講師陣に加えて、北九州市立大学からのゲスト講義を加えた計6時限分を3月15、 16日の2日間にわったっての勉強となります。受講者の声をもとに、その内容を紹介しましょう。

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 北九州で科学技術ジャーナリズムを考えた
Share on Facebook
Bookmark this on Yahoo Bookmark
Bookmark this on Livedoor Clip

 

政治学研究科にあるMAJESTyへの期待

 受講に先立ち、プログラム・マネージャーの谷川建司客員准教授からMAJESTyについての紹介がありました。年配の男性は、MAJESTyが政治学研究科のもとにあると聞いて感心したといいます。

 

「ジャーナリズムは国民のためにあるべきだろうと思うんですね。真実を引き出すだけではなくて、国民がハッピーになるために何をすればよいか、という方向にもっていけるように検討していけるといいなあと期待しています」 このBOOT CAMP、さらにはMAJESTyがこの大きな期待にこたえられるか、当事者ながら心配ですが、2日間一緒に勉強していきましょう。

 

科学と技術をめぐる1日目

1時限目は、岡本暁子准教授による「科学の方法を考える‐『観察する』」。大学で哲学を専攻していて科学哲学に興味を持ったため受講したという女性は、自分の専門に近い講義から始まったので良かったそうです。

 

「岡本先生の話はホパーとかの科学史的、科学哲学的な議論もあって一番わかりました。ほかの講義は難しいのですけど、科学ってどんなものかとか、なじみがなかった科学的アプローチを全体的につかむってことが感覚的にわかってきた気がします」。科学技術ジャーナリズムは新しい分野なので、自分の興味や専門からアプローチしていく必要があるのでしょうね。難しいジャンルも一緒に勉強しましょう。

 

 2時限目は北九州市立大の宮下永教授による「持続可能性について‐地域の取り組みに関わるなかで‐」です。今回のBOOT CAMPでは、唯一、MAJESTy以外の教員ですので、東京から来た受講生に聞いてみましょう。

 

「東京にいると地方の話ってなかなか聞けないですよね。北九州市がなんで産学連携にこういう形で活性化しようと取り組んでいるのか、リアルな話が当事者から聴けたのがすごくよかった。産学連携をやる意味を改めて整理させてもらいました」

 

 彼女はプロの科学技術ジャーナリストだそうです。東京から来た甲斐があったようですね。たしかに、概論に終始しがちな公開講座では、宮下教授のようなケーススタディは重要なパートかもしれません。

 

 3時限目は元・日経エレクトロニクス編集長というベテラン技術ジャーナリストである西村吉雄客員教授による「web 2.0時代の研究開発モデル」です。4月から博士課程に進学するという女性は、自分のキャリアプランを考えるのに役立ちそうだといいます。

 

「最近、研究所がバタバタ閉じているのが気になっていたのですけど、理由を初めて認識できました。民間の研究所に入れたらと思っていたのですけど、安易に考えてたなと」

 

 研究開発の仕事を選ぶうえでの大きな情報があったようです。

 

2日目はメディアの見方と実践 

  日が改まって2日目の1時限目は実習「科学ライティングの基本」です。青山聖子講師(4月より客員教授)からの事前課題は、「再生紙の古紙混合率偽装問題」についての1200文字程度の科学コラムでした。今日の内容は、執筆の方法論の講義と課題の合評です。

 

 年配の男性は合評での講師からのフィードバックが良かったといいます。 「わかっているつもりでも、ちゃんと言われないと、なかなか実践できない。実際にどう書けばよいのかポイントを3つ、4つにまとめていただいたので、これを何回か繰り返せば、自分の文章もましになるかなと思います」  理系の修士学生の女性は課題が難しかったと思案顔です。

 

「うまく書けなかったなと思っていた部分に、ちゃんと先生から赤字で直しが戻ってきたので、不安な気持ちは伝わるんだなあと思いましたね。今日はいろいろなバックボーンの方が受講しているので、言葉の使い方とか、その人の出発点がどこかとか、もっとディスカッションしてみたかったです。最後に、青山先生だったらどう書くのかも、見たかったなあ」

 

 プロのサイエンス・ライターとして活躍する青山先生自身が、この課題をどう料理するか。MAJESTyの実習で厳しく指導された自分も「ぜひ」見たかったです。

 

 2時限目は谷川建司客員准教授による箸休め(本人談)「SF映画は科学技術を正確に予測しうるか?」でした。独立行政法人で研究者として働く男性は、自分の仕事を親にもうまく伝えられない状況をなんとかしたいという考えでBOOT CAMPを受講したそうです。

 

「科学コミュニケーションに興味を持っていましたが、映画という方法は考えたことはなかったので、そういう視点を得られたのは良かった。でも、現代の映画を何年後かに見て、同じように科学技術のテキストになるでしょうか。科学のどの分野も踊り場にあって、今盛り上がっている分野がないような気がするんです」

 

 なるほど、当時の先端研究から導かれる未来が映画化されているとしたら、現代の研究から何が見えるのかは、もっと考えないといけない課題かもしれません。

 

 今回のBOOT CAMPの最後を飾るのは、小林宏一客員教授による「メディア・モーダルシフトの行方を探る」です。テレビ局とインターネット・プロバイダの両方で働いていた経験がある女性は、講義内容に対して時間が足りなすぎると嘆いていました。

 

「例としてあげられていたムービー類をすべて見て、歴史的マッピング観や科学技術的視点を検討する時間が欲しかった。先生自身が近代化教的(ICTの)享受者として楽しそうだったのが意外だったので、余計にそう思います」

 

 女性の大学院生の方は、小林先生の講義が最後だったのはもったいなかったと漏らしていました。 「小林先生の講義のなかに、そこまでのほかの先生の講義で持った疑問の答えがあって『あっ』と思ったんですね。初日の最初にこのモーダルシフトの話を聞けたら、もっと充実したんじゃないかなあ」

 

 講義の順番によって受講生の理解度が違ってくるのは、ありそうな話です。小林先生は、今年度のMAJESTyでの講義より新しい内容を盛り込んでいたくらいですから、もっと時間をとると理解もさらに深まったかもしれませんね。

 

大学院教育、そしてMAJESTyのあり方とは 

 今回のBOOT CAMP全体の評価はどうだったでしょうか。年配の男性からは講義に対して苦言も聞かれました。

 

「オーガニゼーションが全然できてない講義があった。聞く人の立場にたって考えてない。話とスライドと資料が、ひとつの意味を持っているか解釈しにくかった。その先生は、そういうことを考えていないのではないかな」

 

 耳が痛い話ですが、ジャーナリズムは伝わってなんぼの側面もあるので、ジャーナリスト教育の課題のひとつといえるでしょう。ごめんなさい。 大学で研究推進に関わっているという男性は、自分の仕事について考えるよいきっかけになったといいます。

 

「いろんな立場の見方があるんだなあ、というのが正直な感想ですね。MAJESTyを卒業した人が私のような仕事につくイメージがあまり湧かないんですが、逆に、行政とか大学の事務の人間がこういうところに行って勉強するのが効果的なのでしょうか」 理系文系横断型の学部プログラム出身だという修士1年の女性は、大学での教育の問題を再認識したそうです。

 

「媒介の専門家ってキーワードが、この2日間、自分のなかで気になっていました。自分はこれから研究の道を歩むのですけど、研究だけじゃなくて、教育とか、これから何をしなくちゃいけないのかを考えました。西村先生がおっしゃっていたFYE(就学や就業の初年度にどんな経験をさせるか)の話は、学生同士の活動に直接いかせそうです」

 

 大学のありかたを考えさせられたというお二人の感想は、大学院プログラムとしてのMAJESTyのあり方をわれわれ自身も考えよ、という意味かもしれません。

 

 15名の受講生が集まった今回のBOOT CAMPでは、さまざまな立場、年齢の方からお話を聞くことができました。ありがとうございました。

 

夏のBOOT CAMPでの新たな出会いに期待 

 また夏休みに早稲田キャンパスでBOOT CAMPが開催される予定です。ほかの大学や社会人の方と、また共に勉強できるチャンスとなれば最高です。

 

 夏のBOOT CAMPは平成20年度から夏季集中講義「科学技術ジャーナリズム概論」(前期登録)として、修士課程の正規授業化されます。早稲田大学の修士課程学生はこの集中講義(BOOT CAMP)を他研究科聴講科目として登録のうえで受講すると、2単位を修得できるようになります。せっかく早稲田大学という総合大学に設置されているMAJESTyなのですから、早稲田大のほかの専攻の学生のみなさんとも一緒に考えを深めたいですね。

 

 もちろん、他大学や社会人の方もオープン・キャンパス期間(予定)の公開講座として夏のBOOT CAMPを受講いただけます。夏のBOOT CAMPでも学内外の多くの方とお会いできるのを楽しみにしています。