企業との密接な連携を模索する学会

 国内外から生命科学分野の先端研究者が集まる第20回国際生化学・分子生物学会議(IUBMB)が6月18日から約一週間、国立京都国際会館で開催された。日本で開催されるのは1967年に次ぎ、39年ぶり、2回目。9千人を超える参加者を得て、成功裏に幕を閉じた。今回の学会運営では、新たに導入された企業とのパートナーシップの貢献も大きかった。多様で緊密な企業との連携は、今後の学会運営のモデルになっていく可能性がある。

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 今回の会議への参加登録者数は、学会2日目で既に8千人を超えた。過去の会議は概ね3千人前後だった。規模が大きければ運営費もかさむ。それを支えたのが企業の資金力だ。  

 本庶佑・同会議会長(京都大学大学院医学研究科教授)によると、今回、IUBMBでは初めて、資金調達方法として「スポンサーシップ」方式を採用した。オリンピックなどで一部取り入れられているが、国内の他学会でも恐らく採用されたことはない。  

 この方式では、会議運営側が必要な「物品」をリスト化して企業側に提示し、企業は、その中から好きな「物品」を選び、そのための「お金」ではなく、「物品」そのものを自ら調達・製作してきて納品する。「かかったコストの使途や、それによる効果が明確につかめることから、企業側にも好評だった」と本庶会長は話す。  

 企業が提供した物品には社名やロゴを入れることを認めた。参加登録者の名札や、予稿集を保存したCD、それら資料一式が入ったリュックサックから折りたたみ傘まで、様々な物がスポンサーシップでまかなわれた。  

 物品調達にかかる概ねの費用相場で「ダイヤモンド」「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」等と企業スポンサーをランク分けした。会議のプログラムや会場内に協賛企業名を掲示して感謝の意を表していた。  

 従来なかった企業との連携は他にも見られた。企業主催のセミナーを「バイオインダストリーセミナー」と称してプログラム内に組み込んだ。通常の学会ではプログラムの外で開催されるものだ。また、企業名を冠したワークショップや、学生の企業への就職を考えたキャリアワークショップも開いた。プログラムの一環で行われたのは、初めてだと言う。  

 もちろん生命科学分野では、従来から学界と産業界の共同研究は数多く行われており、発表された研究成果の中にも産学連携の果実が多く存在する。しかし、今回の会議は、研究段階にとどまらず、学会の運営、さらには参加者の将来のキャリアパスまでをも視野に入れ、多様で緊密な産学連携が図られた点で注目できる。ポストゲノム時代を迎え、生化学・分子生物学の分野でも、疾病の治療や予防への適用など、研究成果をより一層、社会に還元することが求められている。また、文部科学省の大学院重点化方針の下で博士号を持つ若手研究者が急増したが、全員がアカデミズムの世界でポストを得られるわけではなく、これまで以上に企業の研究所などに活躍の場を求めることが必要になってくる。今回の国際会議の運営方式が、他のアカデミズムの領域でもモデルになっていく可能性がある。