サントリーホールで遊ぼう!

 東京・赤坂にクラシック専用のコンサートホール「サントリーホール」がある。交通の便がよく、演奏するオーケストラは国内外の一流どころがそろう、世界的な知名度とステイタスを誇るコンサートホールである。

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  2007年4月1日、毎年恒例のイベント「オープンハウス〜サントリーホールで遊ぼう!」があった。ステージセッティング、公開リハーサル、オーケストラコンサートなどたくさんのイベントがあり、サントリーホールで毎日どのように準備から演奏まで行われているかをダイジェストで見ることができた。

ホールの響きを考えて音をつくる

 もっとも印象に残ったのは公開リハーサル。コンサートホールでのリハーサルの目的は、それまで練習場で作ってきた音をホール用に微調整することである。コンサートホールは、通常の部屋に比べてよく響く。つまり、通常の部屋で聞こえる音と、ホールで聞こえる音は違う。響き方が違えば曲の印象が変わるので、イメージどおりの演奏をするため、主にテンポや音の出し方を中心に調整を行うのだ。  では、響き方はどのように違うのか。音を出し終わっても室内に音が残ることを「残響」という。これはホール全体の形や壁の形状・材質などでコントロールする(これを音響学という)ことができ、コンサートホールの残響はおよそ2秒に設定されていることが多い。講演会会場などはおよそ1秒で、一般的な住居はそれよりもっと短い。  残響時間が長いと、前の音の響きが、次の音を消してしまう現象が起こる。今日のリハーサルでは、指揮者はこれを「響きが音を超えないように、音をあざやかに」と表現し、オーケストラに修正を求めていた。さらに、「練習場よりテンポを遅くしてるのわかる? 話し言葉もいつもと比べてゆっくりしてるでしょ。そうしないと聞こえないからだよ」と指示がとぶ。たしかに指示の後では音がよく聞こえ、あざやかさが違うことがわかる。  このような細かいことを一つ一つ積み上げ、曲全体の音を作り上げていく。だから、リハーサルが十分でないと演奏がうまくいかない。実際、残響を考えずにテンポを早くすると、音が“だんご”になり、非常に聞き苦しい。今日は、短いながらもリハーサルをしっかりしたため、その後のコンサートは非常に良いものだった。もちろんそれは、指示をすぐに実行できるオーケストラのレベルの高さのおかげもあっただろう。  コンサートホールで音楽を聴く機会があれば、こんなことに注意を払ってみてはいかがだろうか。

君も指揮者に!

 他のイベントでは、コンサートの直後に行われた「オーケストラを指揮してみよう」が楽しかった。「のだめカンタービレ」のオープニングテーマでもあるベートーヴェンの交響曲第7番のサビの部分を、会場の客に1分間指揮してもらうというものだ。小学1年生からお年寄りまで6人が選ばれ、順番に指揮台にあがりタクトをふる。恥ずかしがって振りが小さく、「大きく元気に!」とアドバイスをもらう子供や、本物の指揮者ばりに格好よく決めるお年寄り、そして腕をぶんぶん振り回す学生。それを見て、ときには笑い混じりの拍手を送る観客。みなそれぞれ楽しみ、今日一番の盛り上がりを見せた。

サントリーホールが生まれ変わる

 今年、開館21年目をむかえたサントリーホールは、全面的な改修工事のため、4月2日より5カ月間休館する。改修作業は、音響、内装、デザインを中心に大々的に行う。オープンして20年経ち老朽化がみえはじめ、また、その間音響学の進歩により音響の更なる向上が見込めるからだ。ただ、古くなったからといって単純に新しいものに変えることはしない。たとえば指揮台の手すりはかなりはげてきているが、これには1万人を超える指揮者たちの汗がしみこみ、歴史が刻まれている。これは変えられない。  これでこのホールともしばしのお別れだが、5カ月後、生まれ変わったサントリーホールでのコンサートを楽しみにしたい。


コンサートの詳細 管弦楽:慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラ 指揮:大河内雅彦 曲目:J・シュトラウスII/オペレッタ『こうもり』序曲、チャイコフスキー/弦楽のためのセレナードから第2楽章「ワルツ」、ワーグナー/楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より第1幕への前奏曲