河川環境の復元に「魂を入れる」

河川環境の復元に「魂を入れる」

 高度成長で失われた水辺環境を復元し、まちの原風景・原体験を取り戻す。そんな活動に先駆的に取り組んできた人が、高田馬場にいる。NPO法人の自然環境復元協会理事長とグラウンドワーク三島理事を兼ねる加藤正之さん(67)。その川で人が泳いでいた時代を思い浮かべ、「魂を入れる復元工事」に取り組んでいる。

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 東京メトロ・西早稲田駅の近くのビルの3階。「加藤正之建築研究所」の事務所が、自然環境復元協会の事務所を兼ねている。1970年に早稲田大学理工学部建築学科を卒業し、同大学院終了後、建築設計をしながら、まちづくりに携わってきた。「一軒一軒の建物だけではなく、広がりのある町全体をよくしたい。町の人たちが川沿いに行って水の流れを楽しんだり、鳥が飛んでくるのを楽しんだりする場所を作れるといいな」という思いがあった。

 1989年、静岡県三島市の源兵衛川親水緑道事業に、設計専門家としてかかわり始めたのが最初だった。三島市は、かつては「水の都」と言われるほど、豊かな水に恵まれていた。しかし、60年代に進んだ工業化で、水量が減ったり汚れたりしたという。地域住民、行政、専門家の三者で協働しながら、川の再生に取り組み、10年がかりで回復にこぎつけた。

 「昔、ここに住んでいる人たちはこの川で泳いたんだろうと想像し、そういう人たちの気持ちを川に込めようと考えました」と加藤さんは話す。環境の復元とともに、地域の記憶の復元をする。住民に昔の絵や写真を見せてもらいながら、住民と一緒に復元策を考えた。設計の際は、単にモノを投入するのではなく、「心を入れる、魂を入れる」ことの大切さを強調する。この復元事業「源兵衛川とその川沿い」では、岡村晶義氏とともに1999年度の日本建築学会作品選奨を受賞した。

 現在は、そうしたノウハウをもとに、埼玉県鶴ヶ島市の高倉地区や東京都府中市の多摩川でも、河川環境の復元に取り組んでいる。また、地域コミュニティの再生、人材の育成や幼児教育(子供に生きものとふれる場を提供)などにつなげる事業「環境再生医制度」にも力を入れている。「そういう仕事をすることによって、喜んでくれる人がいます、自分もやっていて楽しくなります。将来は、自然の恵みを生かした産業の活性化もできたらいいなと思います」。加藤さんは目を輝かせた。

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※この記事は、13年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(矢崎雅俊講師)において作成しました。