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若手へつながる江戸の伝統文化「和船友の会」

東京都心は江東区、スカイツリーに程近い横十間川親水公園で、お江戸体験はいかがですか。船頭さんがこぐ昔ながらの「和船」に、無料で乗ることができるのだ。運営は、和船操船の伝統技術を保存する「和船友の会」。中学生から95歳までの男女60人が、ボランティアで和船の魅力を伝えている。

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 公園内を流れる運河沿いを歩くと、海砂橋のそばに乗船場が見えてくる。受付には「和船にのれます/“むかしながらの「ろこぎ」”無料」と書かれたのぼり。船頭が声を掛けあい、和船が次々と出航していく様子に、通りがかりの人も興味深そうだ。「乗っていきませんか!」。親しげな船頭の誘いに、皆うれしそうに和船に乗り込む。櫓(ろ)こぎのリズムに身を任せ、約20分の公園内クルーズだ。

  和船とは、定員10名ほどの細長い木造の手こぎ船のこと。長さは10mを越えるが、櫓を使って船頭一人で操る。区は7艘の和船を所有しているが、使わなければ乾燥や腐敗が進み、傷んでしまう。そこで1995年に区がこぎ手を募集、集まった18人で「和船友の会」を結成した。船頭たちの平均年齢は65歳だ。

  都内でこのような活動は珍しく、観光客にも好評だ。最近は知名度があがり、若い船頭も増えた。窪寺徳浩さん(31)は、2001年から仕事で船をこいでおり、腕には自信があったという。「和船もこげないはずがない」と挑戦してみたところ、意外と難しく、チャレンジ精神に火がついた。和船をこぎ始めて4年目、若手ながら操船指導委員長を務める。

  休日には、学生船頭が5人、練習に参加する。初心者が「難しい」と思う前に「楽しい」と思えるよう、わかりやすい指導を心がけている。「和船が盛んだった頃、船頭の世界に『教える』という概念はなく、日ごろから船に親しみ、先輩を見て技術を身につけた。今後、伝統技術を継承していくには、素人にわかりやすく教えるノウハウも必要」と話す。

  櫓こぎ体験で和船の魅力を知ったお客さんが、練習を重ねて「船頭デビュー」をすることも多い。はじめはまっすぐ進むことすら難しい。全身の力を使ったあげく、櫓に振り回される。いつ船から投げ出されてもおかしくない緊張感を肌で感じる。ところが練習を重ねていくうち、体の一部のように自在に操れるようになる。3tの荷物を載せても、腕一本で動かせる。こぐほどに成長する自分、水の上をすべる心地よさに夢中になるのだ。

  まだ体の動かし方のわからない練習生は、夏の日差しの下で体力を奪われがちだ。船頭が、ある練習生を呼び寄せた。「安物だけど、近所で見つけたから」。麦わら帽子をポンと渡す。さりげなく頭に乗せられた帽子に、仲間の絆と、若手への期待が込められている。

 

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※この記事は、2010年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。

 

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