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うつり変わる街で今も愛される老舗名画座

大好きなあの映画、見逃したあのシリーズを大きなスクリーンでもう一度観たい。そんな願いがかなう場所がある。高田馬場駅から徒歩5分の早稲田松竹映画劇場だ。人気作品が2本立て1300円の名画座で、多くの学生や地元の人々、映画ファンが訪れる。だが一時は、存続の危機に直面した。どのように乗り越え、にぎわいを取り戻したのだろうか。

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人気の秘密とは

 「早稲田松竹は、きれいだしどこかなつかしい感じが良い。作品の組み合わせもセンスがあると思う」と話すのは、早稲田大学文学部の佐藤健郎さん(24)。自分で自主映画を撮るほどの映画ファンである佐藤さんは、大学入学以来、早稲田松竹に頻繁に通っている。

  昨年5月、「バットマン」シリーズの「バットマンビギンズ」と「ダークナイト」が上映されたときは、連日立ち見がでる盛況ぶりだったが、それでも構わず劇場へ足を運んだ。「『ダークナイト』のアカデミー賞受賞のあとで、2本まとめて観られる映画館はここくらいしかないからね」。

  早稲田松竹の人気の理由の1つに、気軽に入れる雰囲気がある。2006年5月、設備が老朽化していたので、座席やロビーを改装した。カーペットを全面張り替えて、座席数を196席から153席に減らし、間隔を広げてゆったり座れるようにした。座席数を減らしてでも、続けて2本見ても疲れない椅子にこだわった。

  内装を一新した結果、客層も確実に広がった。年配のお客や学生はもちろん、最近は女性一人で見に来るお客も少なくない。支配人の菊田眞弓さん(54)は、「新作が公開されても、やっぱり早稲田松竹で見たいと言ってくれるお客さんも多いんですよ」と、うれしそうに言う。

 

期待を裏切らない映画館を目指して

  そんな早稲田松竹だが、8年前には閉館の瀬戸際を経験した。1951年に開館し、1975年に2本立て上映の名画座となったが、大型シネマコンプレックスやレンタルビデオ店に押され、次第に利用者の足が遠のいた。2002年4月、経営不振のため休館。ところが、「早稲田の街の文化の象徴を消さないで」と、早稲田松竹のオーナー会社の松竹映画劇場に、地元の人々や映画ファンから再開を求める手紙や電話が数多く寄せられた。

  同年12月、赤字覚悟で営業を再開。その際、上映作品を大幅に変更した。以前は主に昔の洋画作品を上映していたが、洋画に加え、邦画、韓国映画、ミニシアター系など幅広いジャンルを上映することにした。

  「ちょうど再オープンの頃、『たそがれ清兵衛』など邦画で良い作品がたくさん出てきていました。韓流ブームもあって、『JSA』や『シュリ』など韓国映画も上映しようという話になり、ミニシアター系の映画もリクエストが多くありました」と菊田さん。「再開直後は不安でしたが、客足も戻って色んなお客さんが来てくれるようになって、ホッとしました」と振り返る。

  近年、高田馬場・早稲田かいわいは、マンションやテナントビルの建設工事が目立つ。昔ながらの古本屋や不動産屋に交じり、新築マンションや居酒屋チェーン店などが軒を連ねる。店の入れ替わりも激しく、商店街の組合に入らない店も多い。早稲田松竹にもビル化の話があったが、街の風情を残したいという理由で断った。「うちはこれからも、お客さんの期待を裏切らない映画館にしていきたいですね」と菊田さんは話している。

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※この記事は、10年度J-School授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(林美子講師)において作成しました。

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