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奈良県立医大・車谷教授

アスベスト禍を語る

2005年に発覚した「クボタ石綿事件」。兵庫県尼崎市の株式会社クボタの工場周辺にアスベストが大量に飛散し、周辺住民に中皮腫や肺がんなどの健康被害をもたらした。この事件の教訓を活かし、新たな公害被害を最小限に食いとめるには、どうしたらいいのか。

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クボタ石綿事件から何を学ぶか

2008年10月に名古屋で開かれた第67回日本癌学会で奈良県立医科大学の車谷典男教授が「クボタ石綿事件から何を学ぶか」をテーマに講演した。

車谷教授はクボタ石綿事件について、「アスベストによる従業員の職業病発生は厚生労働省に報告されていたはずだが、厚生労働省はその情報を周辺地域に伝えていなかった」と行政側の対応に問題があったことを指摘した。もし近隣にもアスベスト被害が及びうるという情報が流されていたら、被害の縮小や早期発見ができていたはずだ。

 

 

  同事件は、情報が伝わらず被害が拡大した。車谷氏は、産業医に、環境中に漏れた場合に社外でも発生しうる労災発生事例は保健所に通報する義務を課し、また、産業医の守秘義務を免除して、企業の利益よりも公共の福祉を優先するように法律を改正するべきだとした。

車谷氏は検証作業の必要性も訴えた。これまでにクボタに厚生労働省の疫学調査のメスが入ったことはない。「労働安全衛生法には厚生労働大臣は必要があれば工場内で疫学調査をできるとされているが、この法律を発動すれば科学的評価に基づき今後の教訓に活かせるはずだ」と話す。

新たな脅威

現在、未来の夢の素材として注目されているカーボンナノチューブや、コピー機のトナーに用いられるカーボンブラックがアスベストと形や大きさが似ており、こうした微粒子による健康被害が疑われ始めている。まだ科学的な裏づけはないが、万が一被害が出た場合、私たちはアスベストから学んだ教訓を活かせるだろうか。

クボタ石綿事件は今なお被害者が増え続けており、250人以上の死者をだしている。

アスベスト(石綿)――安価でありながら耐火性や耐久性・耐薬品性に優れる繊維状の鉱石。高度経済成長期に「奇跡の鉱物」としてもてはやされ、建築資材や工業製品、自動車ブレーキなどさまざまな用途に使われていた。空気中に飛散した繊維を長期間吸い込み続けると平均40年間の潜伏期間を経て中皮腫というアスベスト特有の悪性腫瘍を発症する。2040年までに10万人の被害者が出ると予測されている。

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*この記事は、08年後期のJ-School講義「科学コミュニケーション実習4」において、瀬川至朗先生の指導のもとに作成しました。

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