テボで湯切りするジャンニさん

ラーメンなのに、イタリアン

小雨の降る夜に、街の向こうに明るい光が見えてきた。イタリア風のラーメン屋「一八亭」の看板だ。西武新宿線の西武柳沢駅から歩いて7分で着けた。店に入ると、温かい黄色を基調としたライトに癒された。お店を経営するイタリア人の夫ジャンニさんと日本人の妻知枝さんが出迎えてくれた。

(トップの写真:テボで湯切りをするジャンニさん)

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おしゃれな店舗作り

一見、ラーメン店にはみえない。店内にはイタリアのサッカーチーム、ユヴェントスを応援するためのイラスト画が掛かっている。ローマの彫刻「真実の口」を模したティシュボックスも置かれ、おしゃれな雰囲気だ。

人気メニューの「味噌ポナータ」を注文した。ジャンニさんは、味噌とトマトペーストを混ぜ込んでスープを作り、事前に準備した麺を、テボで力強く湯切りした。冷蔵庫から、なす、トマトとチーズなどのイタリア風のトッピングを取り出し、麺の上にのせた。食べてみると、酸味が広がって濃厚トマトが程良く合っている。麺はあっさりとした食味に仕上がっていた。ジャンニさんが着ているTシャツには、ローマ弁で「え!このラーメンめっちゃ美味しいじゃん」と書かれているという。

メニューには味噌ラーメンや自家特製の焼売や餃子などがある。ジャンニさんは「トマトソースと味噌スープの割合の分配は重要だ」と、イタリア風ラーメンの秘訣を語った。

メニュー、味噌ポナータと店内の飾り

メニュー、味噌ポナータと店内の飾り

いまは、イタリア風のラーメン店ということで定着している。このお店、元々は、奥さんの長野知枝さんの父の会社が営む和食飲食部だった。知枝さんは、1985年に、このお店でアルバイトを始めた。16歳だった。2004年にこのお店の経営を会社側から知枝さん一家が引き継いだ。父親の名前が一八(かずや)で、誕生日も18日だった。そのため、「一八亭」という名前にした。

 

タイでの出会いから共働きへ

 味噌ラーメンなどの伝統なラーメン店がイタリア風に変わったのは、知枝さんがジャンニさんと出会ったのがきっかけだった。

知枝さんは2004年、タイのプーケットで語学を学びしながらマーケットをリサーチしていた。タイに2店目を出そうと構想していた。当時、ジャンニさんもタイに滞在し、イタリア人向けのホテル紹介ウェブサイトのビジネスを考えていた。二人は、知枝さんが宿泊していた、イタリア人オーナーのホテルで出会った。ジャンニはそのオーナーさんの友達だった。タイでは二人とも外国人で話しやすかったし、ビジネスという同じ目標で意気投合した。

2004年12月のスマトラ沖地震による津波で、知枝さんは結局、新店の展開を諦め、日本に帰ってきた。ジャン二さんも日本で暮らすようになり、二人は2005年11月に結婚した。

ジャンニさんには料理の経験がなかった。毎日、お店のカウンターで、知枝さんがラーメンを作る様子を見ながら覚えていった。二人はお店で共働きするようになった。ただ、当初は外国人がお店にいるのが珍しく、お客さんがお店のドアを開け、ジャンニさんを見て、そのまま帰ってしまうことが多かった。彼もストレスを感じた。もしメニューをイタリア風にしたら、説明しなくても、イタリア人がいることを分かってもらえるかもしれないと考えた。試験的にやってみたところ、予想以上にお客さん、特に若い人に受け入れられた。結局、それに合わせてメニューも変化してきた。

結婚記念写真と仕事中ハイタッチした二人(長野知枝さんの提供写真)

結婚記念写真と仕事中ハイタッチした二人(長野知枝さんの提供写真)

 

若い人の感覚を大切に

知枝さんはいつも味の改善を考えている。以前はインターネットが普及しておらず、お客さんに直接言われないと気が付かなかった。今はネット上の口コミサイトを常に見ていて、メニューと料理の味を工夫している。常連の人が増え、テレビ番組にも出演した。

若いお客さんの好みを大切にしている。「自分が歳をどんどん取って、若者の感覚からどんどん離れていくと、お店が駄目になる」。チェーン店とは違う、マニュアルがないお店にしたいのだ。お客さんと楽しく接するのが好きで、「数学だったら答えは一つしかないけど、国語だったら答えがいっぱいあるんじゃない」と語った。

この記事は2019年度春学期「ニューズライティング入門」(担当教員:瀬川至朗)の実習授業において作成されました。

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