パティグリさんがラグメンを作っている。両手で引きのばして作って、茹で、鶏肉や羊肉、野菜、唐辛子などの炒めものをかけ、食前に混ぜて食べる。

高田馬場のウルムチ

 高田馬場駅から早稲田通りを沿って10分ほど歩いたところに、白黒の看板を掲げる「ウルムチ」がある。パティグリ・アブラさんとハミティ・オスマンさん夫婦が経営しているウィグル料理店だ。店名の由来は、二人の出身地、新疆ウイグル自治区首府ウルムチへの思いにある。今年で3年目を迎える。

(トップ写真:パティグリさんがラグ麺を作っている。両手で引きのばして作って、茹で、鶏肉や羊肉、野菜、唐辛子などの炒めものをかけ、食前に混ぜて食べる。)

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アラビア書道作品が掛かっている。

 22席ある店内に入ると、ウイグルの雰囲気をすぐに感じることができる。テレビがウイグル歌手のビデオを流している。華やかな灯具の下で、テーブルにウイグルから持って来たテーブルクロスが敷いてある。ピラフやラグ麺、串焼きなど、ウイグルの代表的な料理を豊富に提供する。ウイグル風のお茶や塩味ヨーグルトは大人気だ。ハラールレストランだから、お酒は飲めない。

日本への留学

 パティグリさんは幼い頃から海外留学の夢を持っていた。日本を留学先に選んだ理由は、多くのウイグル出身の学者が日本に留学していたことにある。加えて、姉の親友が東京大学と早稲田大学に留学していた。姉の親友がウイグルに帰って来た時、色々と聞いた。日本には2004年に来て、大学院に入った。2年後、高校の同級生であるハミティさんも留学してきて、二人は2017年に結婚した。

自分の店

 大学院を出て、妻は日本語学校で、夫はIT系の会社で働いた。社会人5年目、自分たちの店を持ちたいという夢を持っていた二人は仕事を辞めた。ウイグル学生を支援する仕事をしながら移動販売車で食べ物を販売し、2年前に今の店をオープンした。

 「15年間の海外生活は辛かったでしょう?」と尋ねると、パティグリさんは微笑んだ。学生時代、「飲食店や自動車の展示場で働いた」。レストランの1年目、経済的には大変だった。しかしながら、彼らにとって一番楽しいのは様々な出会い、そしてウイグルを紹介できることだ。ミュージックビデオを真剣にみている日本人の客から「ウイグルの女性は美しいね」と言われて、「嬉しかった」とパティグリさん。

 今一番苦しいのは、「ウイグルからの本物のシェフを呼べないことだ」という。その背景には、ウイグル人への政治制限が厳しくなったことがある。友人から母の無事は確認できるが、夫の家族は2年前から一度も声を聞いていない。「ウイグルをもっと大事にして、自治区の権利をちゃんと与えればいいのに……」。パティグリさんはため息まじりに言った。

ウイグルのDNA

 ウルムチはもう帰れない故郷になった。日本で豊かな生活をしても、親友がいなければ、寂しいところはある。子どもたちの学校給食で困った時もあった。最初に行った学校では、イスラム教のハラルフードについて何度説明しても、「対応できない」と断られた。その後、他のウイグルの子どもが通う学校に転校した。給食が不適切な場合は、家からお弁当を持っていく。

 子どもたちには、ウイグル文化を学んでほしい。学校ではいつも日本語をしゃべるが、家ではウイグル語のみだ。近所に住むウイグル人仲間たちとは1ヶ月に1回のペースで子ども会をひらき、語学や文化を教えている。10歳の娘はもうウイグル語の読み書きできる。

パティグリさん、ハミティさん夫婦と3人の子供。

 子どもが3人いるが、パティグリさんは子育てと仕事をしながら、ボランティアとしても活躍している。最近、東京オリンピックのボランティアとして選ばれた。6ヵ国語の語学力を活用できるので、楽しみにしている。

 「どこにいてもウイグルのDNAを持っていれば、生活に困らない」という信念を持つ。パティグリさんは、この高田馬場のウルムチで、「今のお店をもっと発展させて、日本とウイグルの間で架け橋になりたい」と語った。

 

この記事は2019年度春学期「ニューズライティング入門」(担当教員:瀬川至朗)の実習授業において作成されました。

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