ゲノム抗体創薬で医療費負担が軽減−がん治療

 がんに有効な治療法として有望視されている抗体治療に関する国家プロジェクトの進捗状況などを、東京大学システム生物学センター所長の児玉龍彦教授が、3日に開幕した第66回日本癌学会学術総会で発表した。がん細胞を標的とする抗体の作成手法はすでに確立され、同センターで作成された抗体を使った肝臓がん治療が早ければ2008年にも登場するという。児玉氏は「将来は、メスの入らない外科的手術も可能になる」と話している。

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 がんは、細胞の遺伝子異常から始まる。がん化した細胞では、通常見られない特殊な膜たんぱく質が細胞表面に作られる。抗体治療では、このたんぱく質だけを認識する抗体分子を使い、まず標的となるがん細胞に結合する。イットリウム90など、がん細胞を殺す力をもつ放射性物質を抗体分子に付けておけば、がん細胞を狙い撃ちで殺すことができる。  

 周辺の正常細胞は標的とならないため、副作用を最小限に抑えられるという。すでに、乳がんや悪性リンパ腫に対して抗体療法が実施されている。 有効性は確認されているが問題点もあった。効く患者とそうでない患者がいること。そして治療費がまだまだ高いことである。  

 児玉氏によると、プロジェクトが進み、抗体の攻撃対象となる膜たんぱく質のデータベース化と、狙い撃ち精度の高い「モノクロナール抗体」作製の手法はすでに確立した。これからは、人体内での抗体の挙動を把握する技術(イメージング)と、より高精度でコンパクトな抗体への改良が目標となる。  

 今回児玉氏らは、イメージングについて紹介した。まず、抗体分子を体内に注入して、その動きをPET(陽電子断層撮影装置)で画像化する。24時間以内には、抗体分子とがん細胞の標的たんぱくとの結合の有無が判明する。結合の仕方などを見て、その患者のがんに合う別の抗体分子を試みることが可能だ。最後にイットリウム90などの「爆弾」を投下してがん細胞を破壊する。  

 これにより、抗体分子を標的に確実に届けられるため、患者による治療効果のバラつきが無くなる。イットリウム90などの体内残留時間も短いので患者に身体的負担がかからない。一連の作業が25時間程度で終了し、かつ少ない投与量ですむため、医療費負担も現在の抗体治療の約3分の1に削減できるという。  

 「基盤づくりはすでに整った、これからは医薬品開発への挑戦の時だ」と児玉氏は語る。