国際生化学・分子生物学会議の意義

生命科学と学会の新たな方向性

 日本での開催は39年ぶり2回目となる国際生化学・分子生物学会議(IUBMB)が今年6月、京都で開催された。9000人を超す参加者があり、世界の最先端研究者が集まる大規模な国際会議として盛況さをみせた。生命科学研究の最近の方向性と、今回の会議運営の特徴について、本庶佑・第20回会議会長に聞いた。

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還元から統合へ

 国立京都国際会館の各会場では、遺伝情報、生体分子・分子構造、細胞の構造と機能、疾病と老化などについて発表や議論が繰り広げられた。会議全体のメインテーマは「生命:分子の統合と生物多様性」。「分子の統合」は何を意味し、なぜメインテーマとされたのだろうか。  

 過去100年ほどの生命科学の潮流を、本庶さんは「要素還元主義」と振り返る。生物を細胞や分子という細かい単位に分解し、その一つ一つを詳しく調べ上げる、というヒトゲノム計画に象徴される手法だ。「細かい要素にすることによって、物事の本質が見えるだろうという考えのもとに研究してきた」と本庶さんは言う。  

 「しかし、分解して調べた細かい要素を並べることで、『生命』というものが解明されるわけではなかった。一つ一つの分子がどのように統合されて、機能を発揮しているのか。これを理解することが今日の生命科学の課題になった。」(本庶さん)  

 ナノ・ミクロレベルで検証する姿勢から、それらを統合したマクロレベルでの認識を目指す方向への転換は、一つの生物の理解を目指すことのみにとどまらない。「生命の原理は微生物もゾウも同じ。それなのに、なぜこんなにも多様な生物が地球には存在するのか。」 会議のメインテーマは、これからの生命科学研究のスローガンといえる。

 

 産業界と学会のコラボレーション

 会議運営の方法も特徴的だった。参加者に配られた資料入れバッグ(リュックサック)やネームプレートには、企業のロゴが付いていた。スポーツイベントなどで用いられる「スポンサーシップ」だ。学会の会議運営に用いられた例としては、国内で初めてだそうだ。企業としても何に資金を出すのかが明確で、宣伝効果も予測できるため、学会支援のモチベーションは高くなる。スポンサーシップの達成率は100%を超えたそうだ。  

 本庶さんは「生化学や分子生物学の分野はかなり成熟し、研究成果の応用への展望がかなり見えてきた。だから企業もスポンサーしやすいのだろう」と話す。  

 今回の会議は参加予定人数の8000人を大幅に超えた。生化学や分子生物学分野を志す人数も増えているという。産と学の連携で活気づく同分野の今後の活躍に期待がかかる。

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