味を決める細胞の仕組み

 私たちはどのようにして甘味や苦味を感じているのか。そんな味覚研究の世界をリードしてきたのが、第20回国際生化学・分子生物学会議に出席するため、6月に来日した米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のチャールズ・ズッカー博士だ。会場でのインタビューに応じてくれたズッカー博士は、味覚の仕組み解明が、より高機能で安全な人工甘味料や人工塩の開発につながっていくと強調した。

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細胞は味の種類を決定し、受容体は味の程度を決定する

 味を感じる仕組みには2段階のステップがある。まず、我々が物を食べると、舌にある味覚細胞の表面に並んだ受容体(たんぱく質)が味物質を「受容」し、コード化する。次に、コード化された信号が脳に送られると、脳が「甘い」「苦い」というように味を「知覚」する。  

 ズッカー博士らは、個々の味覚細胞が受容する味は、それぞれ決まっており、甘味を受容する細胞は甘味しか受容せず、苦味を受容する細胞は苦味しか受容しないことを、マウスの実験で明らかにした。甘味細胞には甘味の受容体、苦味細胞には苦味の受容体しか存在しないこともわかった。  

 それでは、味を決定するのは、細胞表面にある「受容体」か、あるいは「細胞」そのものなのだろうか。この疑問に答えるため、博士らは、甘味細胞の上に苦味受容体を持つマウスを遺伝子組み換え技術でつくり、実験を試みた。この組み換えマウスに苦味物質を与えたところ、マウスの脳はそれを「甘い」と知覚した。こうした結果から、味覚を決定しているのは、味受容体ではなく、味細胞の方であることが突き止められた。極端な例を挙げると、甘味細胞に電気ショックを与えれば、味などがないにもかかわらず、脳は「甘い」と感じることになる。  

 一方、味受容体は、人によって異なる、味の「程度や質」を決定していると、ズッカー博士は言う。同じ食べ物でも、ある人はとても甘く感じ、ある人はほどよく甘く感じ、ある人はまったく甘く感じない、といったことがある。この違いは、味受容体の感度の差から生じる。すべての人は、遺伝的に同じ味覚細胞のセットを有しているのだが、育ってきた環境などで、各味覚細胞の持つ受容体の感度が、後天的に変わってくるのだ。  

 ズッカー博士は味覚だけでなく、聴覚、視覚と、常に五感に関わる研究を行ってきた。現在、より高機能で安全な人工甘味料や人工塩の開発への応用を目指し、大手食品メーカーと共同研究を進めている。味細胞に作用して「苦味を感じなくさせる」薬の開発に活かしていくことも期待される。

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