エボラ出血熱研究最前線

 地球上には数多くのウイルスが存在し、それらに感染して起こる感染症にもさまざまな種類がある。今年6月に京都で開かれた第20回国際生化学・分子生物学会議で、カナダの国立微生物学研究所のハインツ・フェルドマン特別病原体研究員長は、エボラ出血熱を中心に、ウイルス性出血熱に関する研究成果を発表した。現状と今後の見通しについてフェルドマンさんに聞いた。

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発見と課題

 ウイルス性出血熱はエボラ以外に、マールブルグ病、ラッサ熱などが知られる。突発的な発熱、皮膚や内臓の出血など、症状がよく似ている。  

 中でもエボラ出血熱は1976年以来、数回の流行が中部アフリカと一部西アフリカで起きており、記憶に新しい。死亡率は50?90%と高く、死亡者の90%以上は消化管出血を起こす。血管壁が損傷され、免疫が抑制されることで、こうした症状が引き起こされるようだ。血液や体液との接触によりヒトからヒトへ感染する。エボラウイルスは自然界での宿主や媒介動物が不明だが、現段階ではコウモリが疑われている。  

 対策が急がれるが、有効な治療法やワクチンはまだ得られていない。世界保健機関(WHO)の規定に基づき、ウイルスなどの病原体は、危険性に応じて4段階のリスクグループに分類される。エボラウイルスは、最も危険レベルが高いリスクグループ4にあたる。グループ4のウイルスを扱うには、ウイルスが外に漏れ出さないために、特別厳重な設備が必要となる。  

 エボラウイルスは、その危険性が研究の障壁となってきた。状況は少しずつ打開されている。最近の研究成果により、ウイルスの持つ数種類のタンパク質それぞれが、感染したヒトや動物の体内でどのように作用するかがわかってきた。しかし、ワクチン開発には長期的に構えなければならないと、フェルドマンさんは強調する。 「エボラウイルスに対するワクチンが開発されるまでには、少なくとも5?10年はかかるだろう」 ワクチン開発には多大なコストがかかる。エボラ出血熱の場合、中部アフリカ以外の世界に流行が広まっていないため、先進国が開発への投資にあまり積極的ではない。研究でウイルスを扱う際の危険性に加えて、こうした事情も障壁の1つとなっているようだ。  

 一方で、エボラウイルスは、生物兵器として用いられる危険性をはらんでいる。フェルドマンさんは「先進国にとっては、こちらの方が重要な関心事だろう」と分析する。安全保障上、ワクチンが開発され、ウイルスの危険度が少しでも下げられることが求められる。  

 ワクチン開発への道のりはまだ長い。しかしフェルドマンさんは、さまざまなウイルス研究の歴史を振り返り、「エボラウイルスの場合も確実に可能だ」と語る。研究現場からの力強いメッセージとして響いた。