味覚 分子レベルの解明進む

 生物はどのようにして味を感じるのか。近年、味覚の仕組みが分子レベルで解明されつつある。飛躍的な進展をもたらしたのが、カリフォルニア大学サンディエゴ校のズッカー教授が率いる研究グループだ。2006年6月、京都で開催された第20回国際生化学・分子生物学会議の基調講演で、ズッカー教授は味覚研究の最新の成果を披露した。

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※インタビューに答えるズッカー教授(撮影:漆原次郎)

 


 ショ糖やカフェインなどが口に入ると、舌の表面にある味細胞を刺激し、その信号が脳に伝わることで生物は味を感じる。しかし、分子レベルでの詳しい仕組みは未解明な部分が多かった。 ズッカー教授らは、1999年以降、生物が甘味、うま味、苦味を感じるメカニズムを、マウスを使った実験で、次々に明らかにしてきた。  

 細胞の表面には、受容体(レセプター)と呼ばれるたんぱく質がアンテナのように突き出している。受容体にはさまざまな種類があり、それぞれ、ある特定の分子や刺激に反応し、細胞の外の情報を細胞内に伝える役目をする。  

 研究グループは、舌の味細胞に存在する受容体を調べ、グルコースやサッカリンなどの甘味物質に反応する受容体(T1R2+3)、うま味成分のグルタミン酸に反応する受容体(T1R1+3)、カフェインなどの苦味物質に反応する受容体(T2Rs)をそれぞれ突き止めた。さらに、これらの受容体は、同じ味細胞内に共存していないことを確かめた。舌の上には甘味、うま味、苦味を感知する味細胞がそれぞれ存在することになる。  

 それでは、味を決めるのは「味受容体」か、それとも「味細胞」なのだろうか。 ズッカー教授らは、この問いに答えるため、「甘味を感知する味細胞」に、苦味物質に反応する「苦味受容体」を埋め込んだマウスを遺伝子組み換え技術で作成した。この遺伝子組み換えマウスが、砂糖水とカフェイン水、どちらを「甘い」と感じるか、について実験したところ、カフェイン水の方を甘いと感じたことが判明した。カフェインの刺激は苦味受容体から甘味細胞を経て脳に伝わった。味を決めるのは、受容体ではなく、味細胞であることが確かめられた。  

 講演後のインタビューで、ズッカー教授はこんな話をしてくれた。「舌表面の甘味細胞を直接電気で刺激してみたらどうなると思いますか。現実的には不可能な実験だが、結果はきっと「甘い」と感じるはずです」 。知っているようで知らない。ズッカー教授の研究は、舌という感覚器官の面白さを改めて教えてくれた。

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  1. Charles S. Zuker氏インタビュー記事