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45歳、「投手兼営業」。木田優夫選手が抱く想い。

「お客さんに楽しんでほしい」という思い。   営業というと、色々な店や会社へ出向いて頭を下げて回る、というイメージが強いが、木田選手の行う営業もこれを外れたものではない。練習や試合の合間を縫って、スポンサーになってくれな…

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「お客さんに楽しんでほしい」という思い。 

試合前のイベントでマイクを握る木田選手(右)

 営業というと、色々な店や会社へ出向いて頭を下げて回る、というイメージが強いが、木田選手の行う営業もこれを外れたものではない。練習や試合の合間を縫って、スポンサーになってくれないか、球団のポスターを貼ってくれないかと頼み込んで回る。一般的なイメージと多少異なる点を挙げるとすれば、試合での企画を考案し、実行に移すということだろう。試合前には自らマイクを握ってイベントの進行を行い、ゲームが終われば、特技を活かしてファンの似顔絵を描く。「画伯」の愛称をもつ木田選手の似顔絵は大人気で、ファンは「さすがだね。本当にそっくりだよ」と、口を揃えて絶賛する。このような活動を続ける木田選手の根底にあるのは、「お客さんに楽しんでほしい」という思いだ。「NPBに行けなかった選手が集まるリーグだから、野球のレベルは敵わない。でも、プロ野球とは違うことをすることで、お客さんも楽しんでくれるんじゃないかと」

 営業の活動を続けていくうちに、経営が安定しているとはいえないBCLの課題が見えてきたという。木田選手が印象的だったと話すのは、普段あまり試合が行われない加賀市へ赴いた時のことであった。「試合をやるということで、その一週間くらい前に色々なお店を回ったんですけど、『へー、(試合が)あるんだ』という人がすごく多かった」。彼が所属する石川は、金沢市を中心にホームゲームを行う。しかし、県民にミリオンスターズの存在は知られていても、試合の日時や場所までは伝わり切っていないというのだ。さらに「来ていただいたお客さんが、もう一回来てくれるかどうかということが勝負になると思う」とも語る。一人でも多くのお客さんに球場に足を運んでもらいたい。その人たちに球場の雰囲気を楽しんでもらって、もう一度見に来てほしい。そんな思いで、石川じゅうを駆け回り、企画を考える。また週に一度は東京へ飛び、朝のニュースにも出演する。

木田選手が危惧する独立リーグの課題。

  一方で彼は、本業の野球選手としても、BCLが持つ大きな課題を感じている。それは競技としてのレベルや、移動・洗濯などといった環境の問題ではなかった。選手たちの野球に取り組む姿勢である。木田選手は、ほとんどの選手が自分に必要な練習を見極めることができていないと話し、それをこのように説明する。「数学の公式が分からなければ、難しい問題を出されても、解くことはできない。それと一緒で、こういう時はこういう練習をしたほうがいい、こういう技術を身につけるといい、っていうことを分かっていないと感じますね」
 

 BCLの選手たちは、シーズンオフの間はアルバイトをするなどして資金を貯め、次のシーズンに野球に集中できるよう備えている。彼らとは対照的に、NPBやMLBという恵まれた環境で四半世紀以上を過ごしてきた木田選手は、歯がゆさを隠しきれない様子でこう続けた。「僕にしてみれば、そこまでして野球をやっているのに、この後どうしたいと思っているんだろうと。もっとみんなガツガツしてなきゃいけないんじゃないかと。何が何でもNPBに行くっていうね。そういうのが感じられないから、一緒に不安になっちゃう。人生を変えるつもりでやっていってほしい」

 45歳という年齢に近づいても、「150キロを投げたい」と常々口にし、普段から黙々とトレーニングをこなす木田選手。遠征先でも、必要なトレーニング器具がなければ現地調達をして、自分のルーティーンを決して崩さない。それほど真摯に野球と向き合う彼だからこそ、なおさら他の選手達の甘さに気づいてしまうのだろう。

 木田選手は、時間を見つけては多くの選手にアドバイスを送っている。それが監督・コーチの仕事だと認識しつつも、「なんかついつい口を出しちゃう」。だがそれも、他の選手が野球をすることで人生にプラスになるものを見出してほしいからなのだという。球団スタッフも、「やっぱりあれだけ実績のある方だし、木田さんの言うことにはみんな真剣に耳を傾けていますよ」と話す。チームに与える効果も絶大だ。

(次ページへ続く)

【次ページ】45歳のシーズン、そしてその先に目指すもの。

 

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