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学生をまちへ! アトム通貨10年目の取り組み

 早稲田、高田馬場発祥の「アトム通貨」が、今年で流通10年を迎える。ピーク時の2005年には全国で300種類以上が流通していたといわれる地域通貨は、地域活性化と結び付かずに失敗してしまう事例も少なくない。早稲田・高田馬場エリアでは、学生と地域をつなげる新たな取り組みとして、「学生×地域(ヒトマチ)=∞」プロジェクトが始動している。

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 アトム通貨とは、取り組みの理念に掲げる「環境」「地域」「国際」「教育」にかかわる貢献をすると、もらえる通貨だ。たとえば加盟店でレジ袋を節約したり、地域のイベントでペットボトルのキャップ回収に協力したりすれば手に入る。単位は「馬力」で、「1馬力=1円」で換算され、加盟店で使用できる。昨年度、流通額は100万馬力の大台を越えた。

 アトム通貨がどう扱われているか、商店街を回った。西早稲田1丁目の「こだわり商店」の店主、安井浩和さん(35)は「抜群に使われている」と話す。「アトム通貨はコミュニケーションツールです。買い物は無言でもできますが、アトム通貨を渡す時には説明が必要。それをきっかけに、会話に花が咲いたりもします」。積極的に配布してコミュニケーションをとる。そのうちに「アトム通貨を使える店」というイメージが定着したのではないかという。

 一方、早稲田通りにある五十嵐書店の店主、五十嵐智さん(78)は、以前からあまり使われていないと話す。五十嵐さんがあげる理由は二つだ。アトム通貨の仕組みが難しく感じられ、あまり配布できていないということ。そして、学生客が減っていることだ。「昔は寮やアパートもたくさんあって学生さんがたくさんいました。本を買うか買わないかは別に、来てくれれば交流しました。夏休み明けにお土産を持ってきてくれる学生もいました」。しかし、本に興味が無くなってしまったのか、地域から離れてしまったのか、学生のお客さんは減る一方。アトム通貨導入後も、そうした状況は変わっていない。

 商店街でアトム通貨の名は広く浸透しているが、その活用状況は様々だ。高田馬場西商店街振興組合の元理事長であり、アトム通貨の立ち上げに携わった「御菓子司 青柳」の飯田幹夫さん(71)は「アトム通貨をより稼働させるためには、もっと配布する主体がたくさん必要」と話す。「多くの主体の間でアイデアを出し合って、アトム通貨を継承していかないといけない」

 配布主体として期待されているのが、学生だ。早稲田大学の3年生で、アトム通貨を運営する実行委員会に所属する学生の代表、木野知美保さん(20)によれば、「学生は4年間で入れ替わってしまうが、数が多く、地域にいる時間も長い。学生も立派なまちの一員、『学生市民』として意識をもってもいいんじゃないか」と始めたのが、ヒトマチプロジェクトだ。従来、アトム通貨を配布できる場所は加盟店や実行委員会が関わるイベントなどに限られていた。このプロジェクトでは、アトム通貨導入のための補助金の交付や活動のサポートをすることで、学生団体によるアトム通貨配布を促進する。そして学生に、地域と深く関わる機会を提供することを目指す。

 6月には、学生団体と地域の活動団体を招いたプレセッションを二回にわたり開催した。各団体が取り組む活動内容を紹介し、意見交換するという内容だ。団体間で結びつきが生まれ、新たな活動が始まれば、学生の地域への参画を促すことにもなる。木野知さんは「最終的な目標は、やがて全てのまちの主体が手を取りあって、まちに働きかけること。そのために、まずは学生から働きかけたい」と話す。

 

2013年6月
写真は、アトム通貨を扱う「こだわり商店」での買い物の様子

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※この記事は、13年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(矢崎雅俊講師)において作成しました。

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