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桜を通じて思いやりと地域愛を育む

 「もし桜でなくて、家族や友達がケガをしていたらどうしますか」。穏やかな表情でそう語るのは大谷和彦さん(64)。東京都国立市でボランティア団体「くにたち桜守」の代表として、桜の保全活動に取り組んでいる。しかしその活動の真の目的は、市民に思いやりの心と地域愛を育むことだという。

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 きっかけは「ささいなこと」だった。19年以上前、当時、海外書籍の輸入会社で働いていた大谷さんは、ある日見上げた桜の幹の皮が30センチほど剥げていることに気がついた。手当てを頼むためにすぐに市役所を訪れたが、「それでも毎年咲いているから」と取り合ってもらえなかったという。知識もなく何も言い返せずにその場を後にしたが、道を歩くたびに桜の傷が気になるようになった。目を凝らすと、周囲には傷んでいる木が多いことに気づき、「自分が正しいと思ったら絶対に動くべきだ」と行動に移した。

 国立市によれば、1.3キロに及ぶメインストリート「大学通り」には169本の桜がある。大谷さんは1994年、自らの仕事と平行しながら、毎年行われる「桜まつり」でそれらの桜の品種や樹齢を紹介し、傷ついた幹の様子をパネルで説明し始めた。少しずつカンパを募りながら活動を続け、2000年には、桜の保全を目的とした「くにたち桜守」を100人近い有志と結成。行政とも2年間の協働活動にこぎつけた。

 現在、結成から13年。並木道の清掃や傷ついた幹の手当、杭やロープの設置などその活動は幅広い。その中でも最近、特に力を入れているのが環境教育活動だ。

 環境省認定環境カウンセラーという肩書きのもと、市内の小中学校などを訪れている。「友達や家族を助ける時と同じ心で取り組んでほしい」。そう言って子供達と実地学習を行う。踏み固められた根元の土を耕してあえて新たな草木を植え、ミミズなどの生物が住める豊かな土壌に再生することで、桜の回復を助けた。「桜守と言うと、桜のことだけを考えていると誤解されがち。でも自分で手を動かすと、その土地に愛着がわく。そうやって地域を好きになってもらうきっかけになればいいんです」

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※この記事は、13年度J-Schoolの授業「ニューズルームD(朝日新聞提携講座)」(矢崎雅俊講師)において作成しました。

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